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亜希の反抗2-1
第2章
1.台風
「あの時帰っとけばよかった」
大型の台風が近づいてきているのは知っていたが、こんなに早く雨が降り出すとは、思っていなかった。
亜希は、期末テストの採点で学校に残っていた。
同僚の教師が、ちょっと、雲行きあやしいですよと声をかけてくれたときにいっしょに帰っていれば…と後悔しているのだった。
今、学校に残っているのは、校長と他に数人の教師。
彼らは大型の台風に備えて泊まりこむ予定だ。
送って欲しいとはいえない。
校長にはなおさら言いたくない。
「でも、どうしよう…傘はあるけど…」
雨だけなら問題はないが、風が強くなり始めている。
たぶん、もう傘は役に立たない。
というより、逆に傘はじゃまになる。
こうして、ためらっている間にも風の音はどんどん強くなっている。
「しょうがない。帰る!」
自分に言い聞かすように呟くと、亜希は、傘を持って雨の中に出て行った。
亜希のマンションは、学校から歩いて20分はかかる。
普段ならバスを使うのだが、亜希のマンションから最寄のバス停まで徒歩で7~8分。
どうしようかと迷いながら学校前のバス停に着いたが、既にもう腰から下はずぶぬれの状態だ。
しかも、学校前のバス停には屋根がない。
(こんなに濡れてたんじゃ、バスは無理ね)
亜希は、バスを諦め、歩いて帰ることにした。
(ああ、さいてー。なんでこんなに遠いのよ)
歩き始めて、ものの2~3分で、もう上から下までずぶ濡れだ。
さらに風は強まり、10分も歩くと、急激に寒さを感じるようになった。
こんな時に限って、信号はことごとく赤だ。
亜希が横断歩道の信号待ちをしていたら、不意に後ろから声をかけられた。
「何やってんの先生、ずぶ濡れだよ」
そう言う俊哉も、亜希と同様、ずぶ濡れだ。
「工藤君。…あなただってずぶ濡れでしょ」
「はは、たしかに…」
信号が変わって、二人は歩き出した。
通りを渡ると…
「先生、うち、ここだから、ちょっとよっていきなよ。その格好じゃ風邪引くよ」
見上げれば、工藤写真館の看板が見えた。
「でも、私のマンションもすぐ近くだから…」
「うそつけ。俺、先生のマンション知ってるよ。本屋の近くだろ。俺でも10分以上かかるよ。それにこの風じゃ、先生歩けないだろ」
確かに今でもかなりの前傾姿勢でないと歩けない。もっと風が強くなったら…
「…いいから、入んなって」
俊哉は、亜希の背中に手をやり、ビルの中へと押し込んだ。
写真館は、既にシャッターが下ろされ、台風のため休業の張り紙が貼ってあった。
「ちょっと、ここで待ってて」
俊哉は、そう言うと通路の奥の扉を開けて、写真館の中に入ったが、また、すぐに出てきた。
「どうしたの?」
「親父…帰ってたよ」
「…どういうこと?」
「ああ。台風だから、もしかしたら俺を待っててくれるかなって思ったんだけど、薄情な奴。一人で帰っちゃったよ」
「えっ、じゃぁ、あなたどうするの?」
「上に、俺の部屋があるんで…。俺、ここに住んでるから…。それより、先生、そのままじゃ風邪引くよ。とりあえず、服乾かして、それからタクシー呼ぶなりなんなり考えよう。ごめん、上に来て」
俊哉は、亜希をエレベーターに乗せた。
部屋にはいると、俊哉は亜希を入り口に待たせ、大きなバスタオルを持って出てきた。
それを亜希に手渡しながら、
「先生、その突き当りがバスルームだから、そこで、シャワーでも浴びてて。その間に、なんか着るもの探すから」
「工藤君が先に…」
「俺は、どこででも着替えられるけど、先生はそうはいかないだろ、早く。風邪引くって…」
「そう…じゃぁ、ごめんね」
そう言って、亜希は、靴を脱ぎ、バスルームへ向かった。
上から下までずぶ濡れで、歩いた後には、床にしっかりと足跡が残っている。
亜希が、シャワーを浴びていると、脱衣場の扉の開く音がした。
「先生、着るもの置いとくから…」
「ごめん、本当にありがとう」
「俺のだから、でかいけど…」
「いいわ、なんでも。ありがとう」
脱衣場の扉が閉まるのを確認して、亜希はバスルームを出た。
そこに置かれていたのは、ラグビーのジャージとスウェットの下だった。
(そうよね。下着は無いわよね…どうしよう)
亜希は、濡れた身体を念入りに拭いてラグビージャージに袖を通した。
小柄な亜希の身長は153cm、俊哉は、177cm。ジャージは、ほとんど亜希の膝まで達した。
(これだけでいいか)
下着なしで、スウェットを直接身につけるのをためらったというより、それはあきらかに大きすぎた。
亜希の反抗2-2
2.秘密
亜希は、タオルを頭に巻いて、俊哉のいるリビングに向った。
「コーヒーでいい?」
コーヒーのいい香りがした
「入れてくれたの?」
「…俺が飲みたかったんで…」
「ありがとう…私、コーヒー、好きなのよ」
亜希は、実際、コーヒーが好きだった。
俊哉の入れてくれたコーヒーに口をつけると、何ともいえないいい香りがした。
「おいしいわ」
なんということもなく、ただ心が和んだ。
亜希は、コーヒカップをテーブルの上に置いて座った。
(やだ、ぶかぶかでも…あれ、はいときゃよかったわ)
亜希は、家では、風呂上りは裸の上にだぶだぶにシャツを着てるだけだ。
慣れた格好ではあったが、自分の家でひとりきりというわけはない。
座ると下着を着けてないことが気になった。
「ありがとう。助かったわ」
「別に、どうってことないですけど…」
「ごめんね。あなたシャワー浴びてきて」
「服、そこに掛けときました。でも、乾かすもの…これしかないんで…」
俊哉は、ドライヤーを亜希に渡した。
「いいのよ、ありがとう。それより、早くシャワー浴びて」
「じゃぁ、すいません」
俊哉は、バスルームに向かった。
亜希は、渡されたドライヤーでとりあえず自分の髪を乾かした。
(ふーん。これが工藤君の部屋)
俊哉の部屋は、きれいに片付いていた。
高校生の男の子の部屋なんて、散らかってて雑然としているものだろうと勝手に思い込んでいた亜希は、俊哉の部屋を見て、それがまちがいだと思わざるをえなかった。
確かに、多少埃っぽいところもないわけではなかったが、それは亜希自身の部屋も似たようなものだ。驚いたのは、床やテーブル…ソファの上には全く何も置かれていないことだ。
(殺風景…私の部屋と同じだわ)
自分の部屋を思い浮かべながら、亜希は、俊哉の部屋を隈なく見渡した。
(あれ?)
机の脇に収納ボックスがあり、そこの2段目が開いている。
きれいに片付いている中で、それだけが不自然に思え、亜希は、中をのぞいてみた。
大量の写真が無造作に入れられていた。
(ふーん、写真屋さんだものねぇ…)
何枚か、上から順に亜希は、それらを取り出して見てみた。
(これって…)
上の数枚は、モデルかとも思えるような女性の写真。
確かにセクシーではあったが、どうということもないものだった。
ただ、5~6枚取り出した最後の写真は、ヌードだ。
亜希は、更に数枚の写真を取り出して、見た。
それらは、亜希にとっては、初めて目にするものばかりで、ヌード写真ともいえないものだった。
足を大きく開き、股間を前に突き出したもの。
後ろに大きく突き出したお尻と、広げた足の間から垣間見える豊かな乳房。
亜希を最も驚かしたのは、乳房の付け根をロープで縛られ、乳房が赤黒く、色が変わっている写真であった。
亜希は息を呑んだ。
(まさか…こんなこと…彼が撮ったのかしら?)
亜希は、写真を手にしたまま呆然と立ち尽くしてしまっていた。
「先生」
不意に、後ろで俊哉の声がした。
俊哉は大またで近づいてくると、亜希の前に手をさしだした。
「それ、見られるとまずいんだけど…」
「えっ…どういうこと?これ…工藤君が撮ったの?」
「…答えないとだめですか?」
「答えて欲しいけど…」
亜希は、俊哉の答えを待った。
「しょうがない…先生、説明しますけど…まぁ、とりあえず座ってくれませんか」
俊哉は、亜希の持った写真を受け取り、元に戻すと、亜希をソファに座らせた。
「あのですね。うちは現像してるんですけどね。実は、ああいった写真はプリントできないことになってるんですよ、一応…。でも、どうしてもしてくれっていうお客さんが…まぁ、古くからやってるんで付き合いっていうのがあって、断れないお客さんがいるんです。だから、見なかったことにしてもらえないですか。ちょっと、表沙汰になるとまずいんですよ。誰の依頼かなんて言えないですから、結局、うちの親父か僕が撮ったっていうことにしなきゃならなくなるんで…」
「そういうことなの…ふーん、わかったわ。私、てっきり、工藤君が撮ったんだと思って…ごめんなさい」
亜希は、若い俊哉が、実はしっかり家業を支えているんだと感心して、自分が疑ってしまったことをわびた。
「いいんですよ。ただ、黙っててもらえますか?」
「ええ。わかったわ。何も見なかった…でいいんでしょ」
「そう言ってもらえると有難いです」
「でも、えらいわねぇ…あなたが現像とかしてるの?」
「たいていは現像所に出すんですけど、こういうのは出せないでしょ」
「そうね。でも、すごいわ…見直したわ」
「それって、褒めてるんですか?」
「ごめんなさい、でも、褒めてるのよ」
「そうですか。まぁ、素直にお礼を言っときます」
俊哉は、軽く頭を下げると、台風情報を確認しようとテレビのスイッチを入れた。
「直撃ですね」
「そうみたいね」
「スピード遅いし…先生、早く帰んないとね。服乾かしますよ」
俊哉は、別のドライヤーを使って、亜希の服を乾かし始めた。
亜希は俊哉に背を向けて床に座り、スカートと下着をも服を乾かしていたが、先ほどの写真のショックが少しまだ、残っていた。
(あんなこと…写真だけかしら?それとも…ああいうプレイの最中に撮ったのかしら?)
亜希は、立てひざになり、その膝にスカートをかけて乾かしていた。
ラグビージャージは大きくめくれ、真っ白な大腿が露出していたが、俊哉は、亜希の後ろにいるので、見られる心配はない。
そうした安心からか、下着を着けていないという意識が、だんだん希薄になってしまっていた。
亜希の反抗2-3
3.慌て者
「あつっ」
亜希が声を上げた。
「どうした…だいじょうぶ?」
俊哉が、後ろから覗き込むと、亜希は背中を丸めて太ももを押さえていた
ドライヤーを太ももの上に落としたようだ。
スカートを乾かすために長時間ドライヤーを使っていたので、かなり高温なはずだ。
亜希は、立てている足の太ももの内側を両腕で抱え込むようにして熱さに耐えている。
俊哉は、すぐに冷蔵庫から缶コーラを持って来た。
「先生、見せて」
俊哉は、足を抱えている亜希の両手をどけた。
赤くなって多少、火傷しているが、たいしたことはなさそうだ。
「これ、押し付けて冷やして。下に行って薬とって来るから…」
俊哉は、そう言うと、よく冷えた缶コーラを、赤くなっている場所に押し付け、亜希に持たせた
「ごめん。だいじょうぶよ」
「大丈夫みたいだけど、念のためにね…待ってて」
そう言って、俊哉は部屋を出て行った。
「ばか…本当にそそっかしいわね、全く」
独り言をつぶやきながら、亜希は、コーラをどけて、赤くなっているところをじっと見た。
「えっ…」
患部を覗き込むと、ノーパンの股間に、他の人よりちょっと薄めのヘアが丸見えだ。
(見えてた…工藤君?…)
上から覗き込む自分よりも、前に座って太ももに缶コーラを押し付けた工藤の位置のほうが、はるかに見やすい。さっきは、痛みのせいでそこまで気が回らなかった。
(でも、工藤君、覗いてたようじゃなかったし、見えなかったのかなぁ…見慣れてるとか?)
亜希は、そんなばかなと思ったが、すぐに撤回した。
(ほんとに見慣れてるのかもねぇ…)
亜希の視線が、収納ボックスに向いた。
真っ白な自分の太ももが赤くなっているのを見て、先ほどの縛られて変色した乳房のイメージが蘇ってきた。
亜希は、立ち上がって、収納ボックスの横に立った。
(どうしよう…見なかったことにするって…)
亜希は、しばらく悩んだが、見たい衝動を抑えられず、再び、その箱を開けた。
いつでもすぐに元に戻せるように注意を入り口に向けながら、亜希は、写真を見た。
亜希と同じくらいの年齢の女性だった。
清楚なワンピースを着た写真を見る限り、亜希のほうが、胸もお尻も大きいと思った。
(私のほうが…)
しかし、縛られた写真を見ると、これが同じ女性の体なのかと、亜希は、何度も見比べた。
乳房の根元をぎゅっときつく縛られて、乳房が強調されて盛り上がっている。
太ももの付け根に巻かれたロープのせいでお尻も強調されていた。
苦痛にゆがんでいるはずのその女性の表情は、亜希には納得のいくものではない。
どこかが違った。
それがどこというわけではないが、眉間にしわを寄せて、痛みをこらえていた自分の表情とは、違うような気がしてならなかった。
バタン
ドアが開いた。
亜希は、急いで写真をしまうと、収納ボックスの蓋を閉めたが、慌てものというのは、慌てたときになにか失敗をする者のことだ。
亜希は、慌てて小指をはさんだ。
うっ、声を殺して、指を引いたが、そこを工藤に見られた。
「せんせい」
工藤は、まるでいたずらをした子供をたしなめるように、短く一音一音区切って、呼びかけた。
(見つかったわ…あーあ)
亜希は、絶望的な気持ちになった。
小指にうっすら血がにじんだ。
近寄ってきた工藤は、小さなため息をつくと
「見ない…って」
「ごめんなさい…誰にも言わないわ。それは約束したとおりよ」
生徒に弁解している自分が、情けなかった。
「ちょっと見せて」
工藤は、そう言うと、亜希の腕を取り、血のにじんだ小指を見た。
傷口を丹念に眺めると、引き出しの中からバンドエイドを取り出し、傷口にまいた。
「座って」
今度は、火傷の治療のため、亜希を椅子に座らせた。
いたずらを咎められた子供のように亜希は、黙って、俊哉に従う。
亜希が椅子に深めに座ったため、俊哉は、亜希の太ももを持って自分の手元に引き寄せた。
亜希のジャージが大きく捲れ、真っ白な大腿が付け根まであらわだ。
(ああ。また見えちゃう)
亜希の心配をよそに、俊哉は、手早く火傷用の塗り薬を塗って、患部以外のところについた薬をティッシュでふき取った。
「痛いですか?」
「ううん。もう大丈夫。ありがとう…ごめんね」
亜希は、素直に礼を言った。
亜希の反抗2-4
4.モデル
「先生、下に行ったついでにタクシー会社に電話したんだけど、ちょっと、何時になるかわからないって。台風、外はひどいみたい。この辺でも道路が冠水してるらしいよ」
「えっ、そうなの?来れないの、タクシー」
「うん今はね。また、電話してみるよ」
「ごめんね。本当に迷惑掛けちゃって…」
「いいよ。…それより、先生、実は頼みがあるんだけど…」
「何?」
「芸術部で写真やらないかって、このあいだ言ったよね」
「うん」
「やってもいいですけど…先生、モデルになってくれないですか?」
「モデル?」
亜希の脳裏には、先ほどの縛られた女性のイメージが残っていた
「さっきの写真を思い浮かべてませんか?」
ずばり指摘されて、亜希は答えに困った。
「あれは、俺が撮ったんじゃないですよ。あんなんじゃなくて、普通の写真です。
証明写真とかしか撮ったことないんで、不安なんですよ。ちょっと、練習したいんです。練習台になってもらえませんか?」
誤解したことをはっきり指摘されて、動揺していた上に、それでなくても、まるで子供ようなへまばかりを連続した後であったため、汚名返上とばかりに亜希は無理をした。
「そうか。練習台ね…いいわよ。迷惑掛けちゃったし、もともと芸術部には私が誘ったんだしね」
「そうですか。ありがとうございます。じゃぁ、隣がスタジオなんで…」
「えっ…今?」
「そうですよ。それとも、わざわざ、またうちに寄ってくれますか?それに、どうせ、すぐには帰れないんだから」
「そうね。でも、私、服がまだ乾いてないわ」
「スタジオに行けば、何かあると思います。それより、ましですよ」
俊哉は、亜希のだぶだぶのラグビージャージを指差して、にっこり微笑んだ。
スタジオは3つあり、その一番手前、俊哉の部屋に一番近いところに俊哉は亜希を入れた。
スタジオに入ると、俊哉は、亜希を待たせ、奥の小部屋に入った。
「先生、これ着る?」
俊哉が小部屋からもって出てきたのは、シルクのガウンだ。
「いいの?」
「うん…いやなら、他のにしようかって言っても、あとはバスローブしかないんだけど…」
「バスローブでもいいのよ。だって、これ、シルクでしょ」
「撮影するんですけど、これから…。バスローブの写真になっちゃいますよ」
「ああ、そうだったわね…そうね、よくないわね、やっぱり」
亜希は、そう答えてはみたが、
(これでも…よくないと思うけど…でも…)
「ねぇ、工藤君。全身撮るの?顔だけとか…上のほうだけとかって…」
「練習なんで…出来れば全身も撮らせてくれませんか?」
「そうよね…ねぇ、撮った写真、私にくれない、そのぉ…できればネガもいっしょに」
亜希は、俊哉を傷つけないように言葉を選んで、慎重に話した。
「もちろんそうしますよ。でも、何枚かくれると嬉しいですけど…記念なんで…」
「そう…いいわ。でも、私なんかの写真が記念じゃ…」
「何言ってるんですか?先生、きれいですよ。先生のファンいっぱいいるみたいですよ」
こんなことを10歳も年上の大人に向かって、平然と言う俊哉に、
「そう…ありがとう…おせじでも嬉しいわ」
亜希は、戸惑うばかりで、それは生徒に対する言葉ではなかった。
「そこで着替えてください。一応、鏡もありますから…」
俊哉は、さっきガウンを取り出した小部屋を指差した。
「わかったわ。ありがとう」
(どうなんだろう?これっていいのかしら?…って、こんな時間に生徒の家に生徒と二人っきりでいること自体、だめにきまってるわ。でも、台風よ。しょうがないわよ…)
亜希は、教師としての立場を考えてみたが、もはや今更断れる状況でもないことは、最初から気づいてはいた。
ただ、自分を納得させる理由を考えていたに過ぎなかった。
「いいわよ」
亜希は、シルクのガウンだけを羽織った格好で出てきた。
前はボタンで留まっているが、わずかに3箇所。
下のボタンはおへそのちょっと下くらいで、歩くたびに前ははだけ、横からなら、太ももの内側までのぞくことができるだろう。
露出度だけを言えば、ラグビージャージよりはましではあったが、なまめかしさは比べ物にならなかった。
小部屋から出てきた亜希に俊哉は、表情一つ変えず、カメラを構えた。
左右から強い光を当てられた中央に椅子が置かれていた。
「座るの?」
「ううん、横に立ってもらえますか…そう…こっちって…レンズね、レンズ見てもらえますか?」
亜希は、自分でもぎこちない表情だろうと感じながら俊哉の構えるカメラのレンズを見た。
俊哉は、カメラを降ろすと、亜希の横に来て、耳元で囁いた。
「ごめん、先生…後姿から撮っていい?」
「…」
「先生、緊張しすぎ。でも、僕は緊張をほぐす方法が分からないから…ごめん」
「ううん。ごめんなさい。私が…慣れてないから…」
「後姿を撮るよ。それから、正面じゃない横からとか…ね」
俊哉は、亜希の後姿、斜め後ろ、と角度を変えながら、シャッターを切り続けた。
(そんなに撮って…もったいないわ)
亜希は、何枚も何枚も撮り続ける俊哉に
「ねぇ、そんなに撮ったら…もったいないよ」
振り返りながらそう言った瞬間、
「きゃっ」
突然、部屋の明かりが消えた。
「何?工藤君。停電?」
「たぶん…台風のせいでしょう。ちょっと待ってください。今何か持ってきますから。あっ、動かないでくださいね。そのへんケーブルとかあるんで…そう、椅子に座ってて」
亜希は、すぐ横にあった椅子にすわった。
直前まで、強い光を浴びていた亜希は、真っ暗で何も見えない。
近くで、俊哉の足音だけが聞こえる。
「工藤君。だいじょうぶ?気をつけてね」
小さな明かりがついた。
俊哉が懐中電灯をつけたのだが、それはあまりに小さな明かりで、亜希には、光源だけが見えるだけで、他は何も見えない。
その光源だけが近づいてきた。
「先生、そっちに行くけど、よく見えないんで、手探りでごめんなさい」
俊哉の手が、亜希の肩にさわった。
「あっ、いた。ここじゃどうしようもないから僕の部屋に戻りましょう」
そう言われて、亜希は、俊哉の手をたぐって立ち上がった。
(…えっ…)
一瞬、何が行われたのか、暗闇の中で亜希は理解できなかった。
俊哉は、立ち上がろうとした亜希のガウンの襟の部分をつかむと、それを左右にぐっとひっぱり、亜希が立つのと同時に、下に引き降ろした。
ガウンは、前をボタンで止められているので、ちょうどお腹のあたりで止まった。
亜希は上半身むき出しの状態で、しかも手はガウンが邪魔で持ち上げることが出来ない。
「工藤君」
驚いて、工藤の名を呼んだ亜希の唇に工藤の唇が重なり、亜希は、工藤に抱きしめられた。
そうなってもまだ、亜希は状況が把握できずにいた。
亜希の反抗2-5
5.母のない子
「工藤君…」
唇が解放され、亜希は、かすれた声で工藤の名を呼んだ。
「先生…ごめん」
俊哉は、亜希の背中に回り、右手を胴に回し、左右に垂らされ、ガウンで拘束された亜希の両腕をさらに押さえた。
さらに肩越しに左手を前に回し、露出させた亜希の乳房の上に手を載せた。
「何?…やめて」
今度は、かなり大きな声を出したが、俊哉の亜希をぎゅっと抱きしめた腕は緩められることはなかった。
「工藤君…お願い…やめて、放して」
「…先生、怒ってる?…俺、退学ですか?」
「えっ…何言ってるの?」
「先生にこんなことして…だめだよねぇ、きっと」
「…」
亜希は、俊哉が何を言い出すのか、俊哉の言葉を待った。
「先生、今、写真とってたら、ごめん、急に、抑えられなくなって…退学になる?」
今、そうよと言って、どうせ退学なら…と、やけになられても困る。
それに、第一、ここに自分がこんな格好でいることなど、表ざたにできるはずがない。
たとえ、このまま工藤にレイプされたとしても、それを公表できるかどうか?
公表すれば、たぶん自分も教師ではいられない。
亜希は、忙しく考えを巡らした。
「だいじょうぶ。ねっ…誰にも言わないから」
俊哉は、亜希の乳房の上に置いた手を動かしてはいない。
ただ、置いているだけだったが、亜希の答え次第ではどうなるかわからない。
そんな不安の中、亜希は、ゆっくり、身体を俊哉から離そうとした。
俊哉の腕から、少しずつ力が抜けていった。
暗闇にようやく目が慣れ始めた亜希は、さっきから押し黙ったままの工藤の顔の位置を確認しながら、
「誰にも言わない。わたしもこんな格好だし…わたしも悪いんだから…」
そう言って、俊哉の腕から身体を抜こうとした瞬間、再び俊哉の腕に力が込められ、亜希は、俊哉に後ろから抱きかかえられた。
「工藤君」
亜希は、今度は咎める口調で厳しく俊哉の名を呼んだ。
「先生、これだけ…これ以上は何もしないから…もう少しこのままでいて」
「工藤君……」
今度は、明らかに亜希の声がトーンダウンし、その後の沈黙は…事実上の肯定だった。
俊哉の腕に力が入った。
数分の間、そのままじっとしていた。
亜希は、徐々に息苦しくなる胸の圧迫を感じ始めていた。
相変わらず、乳房の上に置かれた俊哉の手は動かない。
動いたのは、手のひらに押しつぶされていたはずの亜希の乳首のほうだ。
「ねぇ…工藤君…もういいでしょ」
乾いた咽から、かすれた声で亜希は工藤に話しかけた。
「ああ、ごめん。やっぱりだめですか?ずーっと、このままでいたかったんだけど…ごめんなさい」
俊哉は、亜希を抱きしめていた腕を解いた。亜希は、すぐにはガウンを元に戻せず、俊哉がそれを手伝った。
「ごめん、先生。…もう写真は撮れないから、僕の部屋に行こう。暗いから…ごめん」
そう言うと、俊哉は亜希の腰に手を回しぎゅっと自分のほうにひきつけ、足元に注意しながら、扉を開け、外に出て、また、元の俊哉の部屋に戻った。
俊哉は、亜希をソファに座らせると、どこかに姿を消した。
「ローソクしかなかった」
そう言って、俊哉が火のついたろうそくを持ってやってきた。
テーブルの上、キッチン、机の上と俊哉は持ってきた6本のそうそくを、部屋のそこここに置いた。
ぼんやりとしたろうそくの灯りだが、6本あれば、なんとか部屋全体を照らすことが出来た。
「ううん。だいじょうぶ。明るいわ」
「何か飲む?」
俊哉は、冷蔵庫に向かい、缶コーヒーと缶のレモンティーを持ってきた。
「コヒー…オア…ティー?」
亜希は思わず笑って答えた
「ティープリーズ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
亜希の心には、先ほどの恐怖心はもうなかった。