スポンサーサイト
新しい記事を書く事で広告が消せます。
続・亜希の反抗 1-1
Body Zone
続・亜希の反抗
3歳になる子供を連れて、亜希は、翔太の店に顔を出した。
「ああ、いらっしゃい」
翔太は、相変わらずの笑顔だ。
「いらっしゃいませ。あら、かわいい」
高校生なのだろう若いバイトの娘が、亜希に話しかけた。
「男の子…ですか?」
「ええ…拳人って」
「ケント君かぁ、大きくたくましくなりそうですね」
スーパーマンでも連想しているのだろう。
その言葉に翔太の顔が、ほころんだ。
「美菜ちゃん、イスを出して」
翔太は、アルバイトの美菜子に子供用のイスを出すように言った。
亜希が、153cm、夫の誠も160cmそこそこしかないことを翔太は知っている。
しかし、その子が大きく育つだろうことも知っている。
「大きくなるかしら?」
嬉しそうに亜希は、翔太を見た。
「大きくなるでしょ。ただ、真っ直ぐには育たないかもしれないがね…」
「そうね…」
亜希は、それでも嬉しそうにうなずいた。
「いつものやつかな?」
「ええ」
翔太がローストを始めた。
亜希の恋人が、ブレンドしたコーヒー。
(わたしが、火あぶりになったら、来てくれるかしら)
亜希は、そっと、拳人を抱きしめた。
第1章 出会い
1.男と女
「スカートをまくって尻を見せろ」
早苗は、立ち上がり誠に背を向けて立つと、ゆっくりとワンピースの裾を上げていく。
ワンピースなのでスカートではない。
ただ、誠にはそんなことはどうでもいいことだ。
太ももが露出したところで早苗はじらすようにさらに時間をかけてゆっくりと持ち上げていった。
誠の好みのTバックは、むっちりと肉付きのいい早苗のお尻に隠れてしまって、見える部分のどこも覆ってはいない。
「あっ」
お尻のほぼ半分が露出したところで早苗の股間にセットされたバイブが振動し始めた。
今日のショーツは、先日誠がネットショップで購入したもので、あの部分が開いているTバックだが、それだけではない。
前には、リモコンバイブを入れるためのポケットがついていた。
当然、誠はリモコンバイブも同時に購入した。
早苗は、それをつけておくようにと言われていた。
最初は、小さな振動だったが、それは徐々に激しくなっていった。
「だめ、だめだって…」
早苗は、耐え切れずにしゃがみこんだ。
「舐めろ」
いつのまにか、誠は裸になって早苗の横に立っていた。
誠は、まだだらんと垂れ下がっている自分の肉棒に手を添えて、早苗の口の前に持ってきた。
「お願い、ゆるめて…」
振動がいくぶん弱まる。
これならなんとかできそうだ。
早苗は、誠の肉棒を口に含んで、先端にぐるっと一周、舌を這わした。
誠は早苗のフェラが気に入っている。
フェラだけということも珍しくはない。
そして出すのはいつも口の中だ。
挿入していても、最後は口の中に出す。
「ああっ」
不意に振動が激しくなって、誠の肉棒が早苗の口からこぼれた。
今度は振動をゆるめずに、誠は早苗の顔を持って上を向かせ、少し開いた口に強引に肉棒を押し込んできた。
誠はよく“俺はサディストだから…”と口にする。
わがままとサディストとは別のものだが、早苗にはどうでもいいことだ。
いつものようにぐいぐいのどの奥に向かって突き入れてくる。
股間への刺激のせいで、体に力が入ってこわばってしまい、誠の肉棒をうまくのどに入れられない。
早苗はむせた。
「ぐふぉっ、げふぉっ」
「立て」
誠が、早苗の手をとって立たせようとする。
「だめ、お願い。ゆるめて、本当に、お願い」
サディストの誠が、バイブをゆるめてくれた。
誠は立ち上がった早苗の上体を前に倒し、Tバックの開いた穴から挿入する。
立ったままで後ろから挿入されるのは、楽ではない。
ひざに当てた手を誠に持っていかれた。
「歩け」
そう言うと、誠は後ろから圧力をかけてくる。
早苗は、腰を折って両腕を後ろに引かれたままの姿勢で一歩踏み出す。
バランスを崩さないように少しずつ足を運ぶ。
一歩…一歩…一歩…
寝室のベッドまでは、7~8m。
後、もう少しというところで、バイブの振動が激しくなった。
「ああああっ」
早苗が絶叫してしゃがみこもうとするのを、誠が早苗のお腹を抱きかかえるようにして支えた。
誠は、早苗のお尻をぴったりと自分に引き寄せ、残りの数メートルを歩く。
手がベッドに届くと、誠に強く押され、早苗はベッドにどっとうつぶせに倒れこんだ。
誠も挿入したまま、早苗の上に乗る。
バイブの振動はMAXだ。。
うつぶせに倒れこんだため、さらに強く振動を感じた。
「あああ、だめ、いく…いっちゃう、いっちゃう…」
誠は、早苗の向きを変えて仰向けにした。
早苗の大きなお尻は好みなのだが、後ろからすると、どうしてもそのお尻の肉がじゃまをして、奥まで挿入できない。
誠は、自分もいこうと思うと、早苗を仰向けか横向きにした。
誠は仰向けになった早苗の両足を大きく広げ、膝裏を自分の肩に乗せた。
早苗のお尻が持ち上がる。
誠は肉棒の根元までいっぱいいっぱい突き入れる。
誠は、肉棒にじわぁっと熱いものを感じた。
早苗は潮を吹く女だ。
誠が突くたびにぴちゃぴちゃと音が立つ。
「ああ…ああっ…ああああ」
早苗の両腕が誠の首筋に回った。
誠は強い力で引き寄せられる。
この細い腕のどこにそんな力があるのかと思うくらいの力だ。
「出すぞ」
誠がそう言うと、早苗は手を放す。
誠はさらに激しく突いてくる。
「ああ…ああああ…あああああ」
早苗の足を投げ出し、誠が早苗から離れると早苗は口を開けて待った。
誠が放出するのは口なのだ。
誠は早苗の口の中に肉棒を差し込むと、早苗の頭を抱え激しく何度も上下させて、口の中に放った。
「…止めて…お願い…」
早苗の懇願に、ようやくモーター音が止まった。
続・亜希の反抗1-2
2.早苗
「わたし、いつまであんなところにいるの?」
「何かあったのか?」
「何もないわよ。毎日、毎日、ほんのわずかの資料の整理とお茶汲み、ひまでひまで死にそう」
「楽でいいじゃないか」
「それにもう、どいつもこいつも年寄りばかり。ゴルフの話か下ねたギャグ。本当によく飽きないで毎日、同じような話ができるもんだってあきれるわ」
「天下り先だからな。老人ホームみたいなもんだ」
「他人事だと思って…」
早苗は、元はキャバクラに勤めていた。
誠が足繁く通ってものにしたのだ。
誠の父親は、6期連続当選の市議会議員で、彼の後援会には、市内の有力企業が名を連ねている。
早苗のいた店のオーナーは、父親の後援会の企業の中の一人だ。
店の開店には、父親がかなり尽力している。
早苗はナンバー1というわけではなかったが、当時はまだ県の職員でしかなかった誠が、彼女を落とせたのは店側の協力もあってのことだ。
誠は、父親の地盤を引き継ぎ、父親を越えて県議会議員に立候補、無事当選を果たした。
「お給料も安いし…、なんにもしてないあの人たちの4分の1よ」
自分も何もしていないのだが、それは棚の上だ。
「いいわね。公務員って…。定年になっても遊んで暮らせちゃうんだから…」
「全部が全部そうじゃないさ。天下りできるのはほんの一握りのお偉いさんだけだ」
「あれでも、お偉いさんだったのね…。ただのすけべおやじだけど…」
誠の早苗への入れ込みは相当で、本気で結婚する気でいたのだが、身内に大反対された。
早苗が水商売だからだ。
それで誠は、早苗を県の外郭団体の臨時職員にねじ込んだのだ。
月平均60万程度の収入があった早苗が、わずか12万の臨時職員を簡単に受け入れるわけがない。
早苗の暮らしているこのマンションは、篠塚誠事務所の名義だ。
早苗は、ここの管理を依頼されていて、月8万の管理費を事務所から支給されている。
水道光熱費、消耗品はもちろん、家具、電化製品の購入、車から電話代まですべて事務所もちだ。
悪くない話だった。
うまくすれば、県議会議員の妻という道もないわけではない。
すでに誠は他の女性と結婚していたのだが、週に2回はここに来ている。
「もう4年めよ。そろそろ考えてよ」
「4年めか…」
誠はつぶやいた。
議員に当選してすぐに早苗をここに囲った。
もうすぐ4年。
任期が切れる。
次の選挙が目の前だった。
「そうだな。次の選挙に当選したら、なんとかする」
「なんとかって?」
誠が妻の亜希と不仲なのは早苗も知っている。
「とりあえずは、秘書かな」
「秘書?わたしが…?」
「秘書じゃ不満か?」
「だってわたし…」
一応、どうにかこうにか高校は中退せずに卒業はしているが、中退率35%という県内最低レベルの高校だ。
「議員のたいていは、愛人を秘書にしてるさ」
「愛人…なのね」
いつか離婚して、早苗を妻にするからというのが約束だった。
議員にとって離婚というのは、かなりのマイナスだ。
まして再婚相手が、元キャバ嬢ともなれば、なおさらだ。
よっぽど強固な選挙地盤を構築できないと、うかつにやれることではない。
もちろん、早苗もそれは知っている。
誠の言葉を、そのまま信用してはいない。
ただ、普段、わがままを押し付けてくる誠へのストレスを発散しているだけだ。
「もう、帰るよ。明日、朝が早いんでね」
誠は、言い訳がましくそう言って、そそくさと服を着始めた。
「出張から帰ったら、例の集まりに呼ばれている。そのつもりでな…」
言いにくいことは帰り際に言う。
小心者の誠のいつものやり方だった。
続・亜希の反抗1-3
3.千春
「明日の用意はできてるか?」
誠は、明日から視察という名目でしばらく旅行に出る。
「はい、そこに…」
亜希はもう寝るつもりで、わかりやすく居間のテーブルの上にスーツケースを置いておいた。
「ゴルフバッグは?」
「もう送っておきました」
視察2日目には、もうゴルフの予定が組まれていた。
「わたしは、拳人を連れて、ちょっと実家に行ってますから…」
そう言って、亜希は寝室に入った。
子供ができてから亜希は、ずっと息子の拳人と同じ部屋で寝ている。
亜希は結婚と同時に妊娠した。
正確には結婚以前に妊娠していたのだが、対外的にはハネムーンベビーということになっている。
誠の浮気は知っていた。
結婚する以前からの関係で、相手は水商売の女らしい。
他人の不幸は自分の幸せなのだろう。
近所には、わざわざそういうことを亜希に知らせてくれるご親切な人たちがいっぱいいた。
それが耳障りで、亜希は、妊娠6ヶ月になると実家に戻った。
亜希には夫の浮気をとがめる気はない。
いや、むしろそれを歓迎した。
亜希の子は、誠の子ではないかもしれない。
亜希自身は誠の子供でないことを確信していたが、誠の浮気のおかげで、誠に対する後ろめたさを感じずにすんだ。
亜希は、息子には拳人という名前を付けた。
誠は反対したが、亜希は、誠の浮気をちらつかせながら押し切った。
無理をして仲のよい夫婦を演じる必要はない。
亜希は、誠とのセックスも拒否した。
亜希には、拳人がいる。
亜希が本当に愛した男の子供。
亜希にはそれでじゅうぶんだった。
次の日、拳人を実家に置いて、亜希は、最近通い始めた絵画教室に足を運んだ。
花村絵画教室。
生徒は亜希を含めてたったの7人。
教室と言うよりはサークルという雰囲気で、学生時代に油絵を描いた経験のある亜希は、別にこれといった指導を受けるわけでもなく、入ったその日から、花村が決めた題材を他の人たちに混じって描いていた。
「先週お伝えした通り、今日は、モデルさんに来てもらってヌードを描きますから…」
生徒にそう伝えながら、花村は、また時計を見た。
(なんとか、間に合った)
千春は、ようやく絵画教室の看板を目にして、とりあえずほっとした。
まさか駅からこんなに遠いとは思わなかった。
予定時刻の5分前。
ぎりぎりだ。
千春は、弾んでいた息を大急ぎで整えてから教室の扉を開けた。
時間が無い。
責任者を探してあいさつしている余裕は無い。
「モデル事務所から来ました。よろしくお願いします」
千春は、とりあえずあいさつをした。
「ああ、遅かったね」
神経質そうな顔の男が一人、千春のほうに寄ってきた。
「花村先生ですか?今日は、よろしくお願いします」
遅いと言われても、遅刻したわけではないので、あやまらない。
「奥に更衣室を準備したけど…」
「いえ、別に着替えるわけじゃないので、ここでいいです。荷物だけ置かせていただければ…」
後3分。
謝らない以上、予定の時間には仕事を始めなければいけない。
千春は、部屋の隅に行くとすぐに服を脱ぎ始めた。
描く側の8人は、男女が半々で、花村を含め4人の男性は、こちらに背中を向けて服を脱ぐ千春を見ていたが、女性達は、何かしらこまごまとした作業をして、そちらを見ないようにしている。
ただ、一人だけ、男達と同じように風を脱ぐ千春を眺めている女性がいた。
裸を見られるより、脱ぐところを見られるほうが恥ずかしい。
少なくとも亜希はそうだった。
亜希もモデルをしたことがある。
絵のモデルの経験もあるが、思い浮かべたのは俊哉のカメラの前に立った自分だ。
工藤俊哉。
10年前に亜希が受け持った生徒。
亜希は、その俊哉のカメラの前に裸体をさらしたことがあった。
亜希の胸に久しく忘れていた感覚がよみがえってきて、きゅっと胸が痛んだ。
そんな亜希の思いとはうらはらに、千春はあっけらかんとしたものだ。
なんの躊躇もなくブラをはずし、パンティーも脱いだ。
(ヌードモデルだもの。いちいち恥ずかしがってたんじゃ仕事にならないわよね…)
亜希は、我に返ると他の女性達が誰も千春を見ていないことに気づいて慌てて目をそらした。
続・亜希の反抗1-4
4.記憶
「そこに立って、そのロープをつかんで…」
花村がさっそく指示を出す。
部屋の中央に30cmくらいの台が置かれ、そこに天井から一本、手を伸ばせば届くくらいの高さまで太いロープが降りていた。
千春は、台にあがって手を伸ばしてロープをつかんだ。
「もう少し、背伸びするくらいで…」
千春はさらに手を伸ばし、ロープに上の部分をつかむ。
ふくよかだった千春の体が、ぴんと張った。
ふくらみはやや損なわれたが、垂れ気味だった乳房が上を向き、お腹がへこんで陰影がしっかり刻まれた。
皆が思い思いの位置に場所を決めていく中で、ひとり亜希だけが立ち尽くしていた。
亜希の視線は、千春のお腹に向いたまま動かない。
見たことのある光景。
亜希の目は、10年前の自分に向けられていた。
あの時…。
唇を強く吸われ、乳房をぎゅっとわしづかみにされた。
(声を上げないように、必死に我慢したわ)
指で乳首を挟まれて、引っ張られて声をあげた。
(痛かったっていうより、怖かったの)
何度も乳首を引っ張られ、その後、脇の下に指を立てられた。
(あれはびっくりしたの、そんなの初めてだったから)
突き刺すように立てた指をそのまま脇腹まで下ろされた。
(それは、我慢したでしょ)
今度は、指をおへそに突き立てられた。
(あれは、本当に痛かったけど、必死で耐えたのよ)
とうとうこらえきれなくなって、声を出した。
(ごめんなさい。痛かったの)
わたしが声を上げると、あなたはすぐに指を引いた。
(痛いって言わせたかったの?)
でも、溜めていた息を吐いた瞬間、すぐに指を差し込まれた。
(ひどいわ。不意打ちなんて…)
「はぁーっ」
亜希は、あの時と同じように強く息を吐いてしまった自分に驚いて、思わず周りに目をやった。
(よかった、誰も見てない)
亜希は、もう一度千春を見た。
千春と目があった。
亜希は、あの日の自分に微笑んだ。
場所取りが遅れた亜希は、千春の斜め後ろに回った。
見ることのできない自分の背中、お尻。
それを見てみたいと思った。
「先生、これ、ちょっときついです」
普通、絵のモデルは20分で休憩を入れるのだが、この姿勢を20分はきつい。
千春は10分がんばったが、もう無理だ。
「じゃぁ、ちょっと休んで」
「ふーっ」
千春はその場にしゃがみこんだ。
台の上で足を左右に開き、お尻をぺったりとつけて座る、女の子がよくする座り方。
ふくよかな千春のお尻が、扁平につぶれていた。
縦に引かれていたさっきまでのシルエットとは対照的だ。
亜希は、座った千春を描きはじめた。
続・亜希の反抗1-6
5. 似た者
「お疲れ様」
亜希は、予定の時間が終わった千春に声をかけた。
男性ならば結構いるが、モデルに声をかけてくる女性はめったにいない。
千春は、多少戸惑いながら挨拶を返した。
「お疲れ様」
「もし、よかったら、お茶でもどうですか?」
亜希は、なんとなく千春に親近感を覚えてお茶に誘った。
「ああ、いいですね」
千春は気軽に応じた。
目があったときに、微笑んだ女性だ。
千春も亜希に少し興味があった。
モデルは、描いている人を見ない。
動きの中の一瞬を切り取る写真と違って、絵は最初から“静”だ。
心が動けば絵が動く。
描く側も描かれる側も余計なことはしないのが普通で、たまたまモデルと目があっても、とりたてて何のリアクションもしないものだ。
なのに亜希は、その時、にこっと笑った。
モデルを見る目もどこか他の人とは違っていたし、それにひとりだけ後ろから描いていた。
「モデルはもう長いんですか?」
「5年くらいかな」
「…絵のモデルって、大変でしょう」
「どうかな?まぁ、じっと同じ姿勢ってのは疲れるけど、わたし、表情って苦手だから、写真より楽かも…」
「表情?」
「笑ってとか、微笑んでとか、感じた顔ちょうだいとかって…」
「ああ…」
「“もっと官能的に”とかって言われても、感じてもないのに…無理よね」
千春はあけっぴろげに話す。
「昔、鏡見ながら、そういう顔を練習してた子もいたけど…。鏡見ながら、“ああん”とか“ううん”とかって、ばかみたいでしょ、そんな練習」
「ふっ…」
千春の作った官能的な表情がおかしくて、亜希は吹き出した。
「ごめんなさい」
「ううん。それより、ちょっと訊いていい?」
「何かしら?」
「あなただけ後ろから描いてたでしょ」
「ああ、あれ?…お尻が描きたかったの」
「お尻?」
「あなた、休憩して座ったでしょ。ぺたってお尻がついて…、それがすごくエロティックで…」
「じゃぁ、座ったところ描いてたの?」
「そうなの。ごめんなさい。あのポーズも、体全体が緊張しててよかったんだけど…」
「よくないわよ。きつかったのよ。あのポーズ」
「だと思うわ。あれって、なんかSMっぽかったわ」
「そうよね。あれなら、縛ってもらったほうがましよ」
「縛るって…、モデルって、そういうのもあるの?」
「縛りってこと?」
「ええ」
「あるわよ。主に写真のほうだけど…。やらない人もけっこういるけど、わたしはそっちがメインなの。今日のポーズなんか、ただ縛ってないっていうだけでしょ」
「そうね」
「縛られてないほうがきついのよ」
「そう?…どうして?」
「縛られてたら、手を下ろしたくても下ろせないでしょ、縛られてるから…。でも、今日は縛られてるわけじゃないから、疲れたら下ろしたくなるわけ。でも、指定されたポーズだから、下ろすわけにいかないし…。下ろせるのに下ろせないってのは、精神的にきついわ。縛られてたほうがまし。縛ったやつを恨めばいいんだもの」
「そうか…そうね」
「縛られるよりきついのに、料金は普通よ。縛ってくれたほうがこっちはよっぽどよかったわ」
「あっ、そうか。料金は違うの?」
「5割増」
「それっていいの?」
「どういうこと?」
「5割増でも割に合わないとかって?」
「割に合わないのは、今日のようなやつよ」
「そうね」
納得する亜希を千春は興味深そうに見ていた。
「亜希さん、縛られたことあるでしょ?」
千春が唐突に訊いてきた。
「えっ…、えぇ?」
亜希は返事に窮した。
返事に窮すること自体が肯定だ。
「あるの?」
“無い”と答えられるタイミングはとっくに逸している。
亜希は小さくうなずいた。
「ほんの少し…昔の話よ」
「やっぱりね。そんな感じだもの。嫌いってわけじゃないでしょ、縛られるの?」
「わたし、そんな風に見えるの?」
「ごめん。気を悪くしないでね。わたしの勝手な想像よ」
「ううん。ぜんぜん平気よ」
「この前もね、絵のモデルだったんだけど、縛られたのよ」
「ふーん」
「その人、そういう絵が得意なんだけど、モデルを選ぶの。本当にMな女性しか描かないの。でね、その人の絵を見たんだけど…。なんか似てるのよね」
「似てる?」
「何だろう。細かく見ると、モデルの子は、みんなそれぞれ体型も顔も全然違うんだけど、なんか雰囲気が似てるの」
「わたしも、そうなの?」
「そんな感じ」
「ふーん。わたしね、なんとなくあなたと気が合いそうな気がして、声をかけたの」
「やっぱり、同類ってことかしらね?」
「そうかも…」
亜希には、こんな会話も久しぶりだ。
議員の妻では、こんな話はできない。
「あっそうだ。まだ、名前聞いてなかったわ。わたし、千春っていうの。あなたは?」
「亜希…佐々木亜希」
佐々木は、亜希の結婚する前の苗字だ。
亜希は、とっさに旧姓を名乗った。
「亜希さんか…。ねぇ亜希さん」
「何?」
「結婚してるの?」
「ええ、してるわ」
「ふーん。じゃぁ、縛られた相手はご主人じゃないんだ?」
「どうして?」
「昔のことって言ったでしょ」
亜希は黙った。
「ごめんなさい。詮索する気はないのよ。気にしないで…」
千春は、亜希が黙ったのを見て話題を変えた。
「わたしの絵を飾ってくれているお店があるんだけど、よかったら、行かない?」
「お店に?」
「わたしの絵を描いた人、いくつかお店を持ってて、自分の描いた絵をお店に飾ってるってわけ。どう?」
「わたしが?これから?」
亜希は考え込んだ。
興味がないわけではない。
「そこのお店、カクテルバーなの。見に来いって言われてるんだけど、ひとりじゃなかなか入れなくて…、すぐ帰らないとだめなの?」
「ううん。そんなことは…」
「裸の絵だから、友達誘うわけにもいかないし、どう?いっしょに行ってくれない?」
飲みに誘われるのは久しぶりだ。
いつの間にか議員の妻という社会の中に組み込まれてしまっていた亜希は、息苦しくてたまらなかった。
息子の拳人は実家にいる。
遅くなっても問題ない。
「いいの、本当に…?」
「えっ、いいの?」
千春は、驚いたのか、大きな声をあげた。
「こっちこそ、いいの?初対面なのに…」
「いい。いい。行く?もうお店開いてるわ」
「うん」
久しぶりに亜希の心が弾んだ。