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由香里の日常
デイリーライフ
プロローグ
「やだ…」
激しい夕立だった。
学校を出るときは、うだるような暑さの中。
それが、急に暗くなったかと思うと…
由香里は、高校に自転車で通っていた。家まで、後10分程度の距離が残っていた。
傘もレインコートも持ってはいない。
(どこかで雨宿り…って、そんな場所ないし…しょうがない)
由香里は自転車のスピードを上げたが、すごい雨と…雷。
ほんの数秒で、後悔した。
(ああ、だめだ。…冷たい…あそこ…)
由香里は、パチンコ店の入り口横に自転車を止めて、雨がやむのを待った。
かろうじて、雨は避けられたが、ただ、突っ立ているだけだ。中に入るわけにはいかない。
駐車場に車を止めた客が、由香里の前を通ってパチンコ店に入っていく。皆、同様に由香里を見る。確かに女子高生が立っているような場所ではないが…。
雨宿りだ、そんなに不自然ということもないはずだ。
あまりに露骨にジロジロ見られるので、由香里は、少し、腹が立ってきた。
(なに…じろじろ見ないでよ。しょうがないでしょ、雨なんだから…)
由香里は、ハンカチで濡れた髪の毛を拭きながら、店の中のほうに向きを変えた。
平日の昼間だというのに、けっこうお客が入っている。
さっき入って行った客は、まだ、こっちを見ている。
(何よ…じろじろと…)
やがて、他の客の一人も、こっちを向いた。
また、ひとり…また、ひとり…
(なんなのよ。全く…見ないでよ…)
視線を嫌って、向きを変えた由香里の目の先にウインドーのガラスに映った自分がいた。
(えっ…うそっ…)
夏用の制服は、白のブラウスにライトブルーのスカート。
びしょ濡れのブラウスは、その下のブラともどもぴったり肌にくっつき、乳首までくっきりと浮き上がっている。
(わたし、この格好で…いやーっ…)
まだ雨は、激しかったが、由香里は慌てて自転車に乗った。
恥かしさで心臓が飛び出しそうだ。
さらに、雨に打たれ、自分でもブラウス越しに自分の肌が見える。
もう、裸も同然だった。
傘を差した高校生らしい男の子が、じっと見ている。
由香里は、片手で胸を押さえた。
大粒の雨で、目を開けていられない。
由香里が左に曲がろうとしたそこに横からすっと傘が伸びてきた。
「きゃっ…」
避けようとして、歩道の縁石に乗った。
自転車の前輪が跳ね、片手ではバランスが取れなかった。
由香里は転んで、濡れた歩道にお尻を突いた。
起き上がろうと後ろについた手が滑った。
あろうことか、由香里は、雨の中、歩道に仰向けになってしまった。
「ごめん…だいじょうぶ?」
傘を出したのは、ランドセルを背負った少年だった。
少年ふぁ、仰向けの由香里を上から覗き込む。
(見ないで…見ないで…)
少年が、転んだ由香里に手を差し出すのを制して由香里は、上半身を起した。
「だいじょうぶよ…」
とは、言ったが、どこかで強く膝を打ったようで…立ち上がれない。
通行人が、立ち止まって覗き込んでくる。
(見ないで…行って…行ってよ)
痛みがやわらぎ、ようやく由香里が立ち上がると、それまで、横で傘をさしかけてくれていた少年は、由香里に傘を渡し、倒れた自転車を起してくれた。
「自転車は…だいじょうぶみたい」
「ありがとう…」
「ううん…」
少年は、その後に何か言おうとしていたが、由香里は、傘を返すと、急いでまた、自転車に乗った。
いつのまにか、数人のひとだかりができている。
由香里は、一刻も早くそこから逃れたかった。
裸同然の格好なのだ。
逃げるように由香里は、自転車をこぎだした。
肘も強打したようで、もう片手で胸を隠せない。
由香里は、上半身、ほとんど裸に近い格好で、家まで10分、自転車を走らせた。
何人とすれ違っただろう。
すれ違った男性のほとんどが、由香里をじっと見、女性のうちの何人かは、心配そうな目で由香里の顔を見た。
恥かしかった。
恥かしくて…恥かしくて…恥かしくて…
胸がドキドキした。
由香里の日常1-1
Baby Doll Baby
Baby dollⅠ 由香里の日常
第1章
1.勧誘
「ねぇ茜、明日、水着買いに行くの付き合って・・・」
葛城由香里は、大学の講義を終えて、ラウンジで友人の西野茜に話しかけた。
「明日かぁ・・・、ごめん、明日は、撮影なんだ」
茜は、バイトでヌードモデルをしている。
「そっかー」
「ねぇ、由香里。話し変るけど・・・あんたも、モデルやってみない?」
「モデルって・・・茜のところの?」
「うん。マネージャにね。誰かいい子いないかって、相談されたの。なんか、会員が増えて、モデルがけっこういるらしいのね」
「会員?」
「ああ、登録しているカメラマンさんのこと」
「カメラマンって登録制なの?」
「そうよ。どこのだれだかわかんない人じゃ、何されるかわかったもんじゃないわ。裸なのよ」
「そう・・・だね」
「会員の紹介がないと会員にはなれないの」
「ふーん」
「で、どうぉ?」
「どうって・・・急に言われても・・・・」
由香里は、地方都市だが、そこでは1.2を争う建設会社の娘で、どちらかというと、少し世間には疎かった。茜のバイトは、本人からときどき話しを聞かされている。興味がないことはなかったが、自分もやってみようという気にはならなかった。と言うよりは、自分にそんなことができるとはとても思えなかった。
「別に、急ぐ話じゃないから・・・・、ちょっと、考えてみてよ」
茜は、そんなに強引には勧誘はしなかった。茜自身、誘ってはみたものの、たぶん、無理だろうと思っていたので、適当に話を打ち切った。
「なに、それ?」
茜が、見慣れない雑誌を持っている。
「あっ、これ?・・・わたしが出てるの」
月刊の写真雑誌のようだった。
「茜が出てるの?どこ?見せて・・・」
茜は、すぐさま、そのページを開いて見せてくれた。
(うわぁっ・・・・・・)
「・・・きれい・・・・」
正直な感想だった。顔ははっきり写ってはいないものの、それは確かに彼女のヌードで・・・。由香里は茜の裸を見たことがなかったので、実物との比較はできなかったが、それでも、とても目の前で、自販機のコーヒーを飲んでいる茜とは思えない。
「きれいでしょ。これね、アマチュアの写真コンテストで入賞した作品なの」
茜の話を聞いているのかいないのか、由香里の返事はない。
「撮影会でね、他にも3人くらいいたんだけど・・・この人は、もうベテランで何度も入選してるらしいわ」
「撮影会って?」
由香里は、ようやく視線を茜に戻した。
「事務所がね、いついつどこそこで撮影会をやります。モデルは誰それって募るのよ」
「そうなの?1対1で撮るんじゃないの?」
「そういうときもたまにはあるけど・・・何人かで撮ったほうが安上がりでしょ。アマチュアだからね」
「そうか・・・」
由香里は、屋外で、大勢のカメラマンに囲まれている茜の姿を想像したつもりだったが、なぜかそこには茜ではなく、裸の自分がいた。
(やだ・・・わたし・・・・)
大勢の視線を浴びている自分を想像して、恥かしさに胸が震えた。
「大勢で・・・恥かしくない?」
「最初はね。でも、すぐに慣れるわよ。すぐ。それに、恥かしいのは1人も5人もいっしょよ」
「そう・・・なの?」
「そりゃ、そうよ。むしろ、一人のほうが恥かしいかもね・・・」
「そんなもの?」
「大勢だと、完全に仕事っていう感じだけど・・・ひとりだと、なんかね・・・それにやっぱり、一人だとちょっと、不安」
「不安って?」
「後ろから撮られてるときなんか・・・無防備でしょ」
「ああ・・・そんなこともあるの?」
「ないわよ・・・だって、身元も何もかも分かってるわけだから・・・・。そうはわかっててもね、まぁ、気分の問題よ」
「そうかぁ・・・」
由香里には、全く想像もできない世界の話だった。
「そうだ。興味があるんなら、一度来てみる?」
意外にも脈のありそうな由香里に、茜もその気になって誘ってみた。
「行っていいの?」
「だいじょうぶよ。今度の土曜日、私の撮影会だから・・・・。見たら、色々分かるし。場所は、○○のスタジオだから、簡単に行けるし・・・そうしてみたら?」
「見学・・・?」
「そう・・・見学。見てみないと、話だけじゃわかんないでしょ。意外と面白いと思うかもしれないし・・・」
(茜のヌード撮影の現場・・・見たいし・・・場所も遠くないし・・・・)
由香里は、知らず知らず、臆病な自分自身の説得を始めていた。
「わかった。じゃぁ、行ってみる。いい?・・・じゃまなら、そう言ってよ」
「うん。わかった。じゃぁ、マネージャーに言っとくわ」
見学に誘われただけなのに、気分が高揚してしまっている由香里に対して茜は、全く普通の調子で、そう言って、用があるからとそそくさと出て行った。
(茜・・・自分の写真なのに・・・きれいでしょって・・・・)
写真の良し悪しをただコメントしただけといった感じの茜の話し方が、由香里には、バカ話をして笑い転げている普段の茜とは全くかけ離れて聞こえた。茜が、自分よりはるかに大人な感じがして・・・。
由香里は、その同じ世界に入りたいと思った。
由香里がいなくなって、ひとり、由香里は、大勢の人に囲まれている裸の自分を再び想像した。
また、胸がドキドキし始めた。
由香里の日常1-2
2.見学
朝早く、茜に連れられて、由香里もスタジオに入った。
「おはようございま~す」
茜の慣れたあいさつに、少し気後れしながら、由香里は、茜の後ろにくっつくようにスタジオ脇の事務所に寄った。
「永井さん、昨日話してた由香里ちゃん。見学したいって言ってた子」
「初めまして、由香里です」
由香里は、永井にあいさつをした。40歳くらいだろうか、ごく普通のおじさんという感じの男だ。
「ああ、永井です」
永井は、由香里に名刺を渡した。
永井晴樹。
名刺などもらったことのない由香里は、どうしていいのかわからず、
「邪魔にならないようにしてますので、よろしくお願いします」
と、再度、頭を下げた。
「そんなに緊張しないで…堅苦しいもんじゃないから…。じゃあ、9時から始めますから、それまで、あっちでコーヒーでも飲んでて下さい。始まったら、カメラマンの後ろなら、多少動き回っても大丈夫だけど、みんなの荷物があるから、それだけ注意して…。みんなはスタジオの人だと思うだろうから、平気だよ」
「誰かに話しかけられたら、私のメーク係だって言えばいいよ」
茜が不安そうな表情の由香里にそう言うと
「ああ、それでもいいかも。あかりちゃんにハクが付くしね」
永井は、そう言って笑いながら、奥の部屋に入っていった。
ふーっ
自分では、緊張していないつもりだったが、永井がいなくなって茜と二人になると、由香里は小さく溜息をついた。
「なーに、緊張してんの?モデルはわたしだよ。写真撮られるのはわたし。わかってる?」
茜は、ポットに用意されたコーヒーを紙コップに注いで、由香里に渡した。
「それからね、誰かに、名前とか色々、教えちゃダメだよ。私だって、何度も撮影会やってるけど、プライベートな事は、教えないようにしてるし…」
「やっぱり、なんか危ないこともあるの?」
「ここの撮影会は、そんなこともないんだけど…、イベントのような撮影会だと、後で、直接、モデルやってくれないかって電話が入ったりするみたい」
「ふーん…だめなの?」
「事務所を通す通さないじゃなくて…何されるかわかんないでしょ」
「あっ、そうか」
そんな当たり前のことを、今更のように納得する由香里に、茜はいつもの呆れ顔で言う。
「もう、由香里は…」
後は言わなくてもわかっている。
時間が経つにつれ、カメラマンたちが集まって来た。
永井が出て、彼らと話をしている。
由香里は、少し離れた位置でそれを見ていた。
「おはようございまーす」と普通にあいさつがあって、カメラマンどうし笑いながら雑談をしている。
釣りとか、キャンプに行く待ち合わせのような雰囲気だ。
由香里は、ヌードを撮られる側はもちろん、撮る側も恥かしいんじゃないかと勝手な想像をしていたのだが、現実は全く違った。
モデルの茜も含めて、そこには、全く何の緊張感も無い。
緊張しているのは、ただひとり、自分だけだった。
「始めるよー」
永井が、扉の隙間から、顔だけ出して伝える。
「はーい」
茜が出て行き、まずは、水着での撮影が始まった。
カメラマンは10人くらい、とぎれることのないシャッター音とストロボの光に由香里は圧倒された。
茜は、自由にポーズを変えていく。周りを囲むカメラマンにまんべんなく顔を向け、髪をかき上げ、振り乱し、さらに、時々かかるカメラマンの声にも即座に対応して見せた。
自分なら悩むような注文にも瞬時に応じる茜を由香里はじっと見つめていた。
「じゃ、そろそろ水着とろうかー」
頃合を見て、永井が声をかける。
ヌード撮影会なのだから当たり前のことなのに…脱ぐと思った瞬間に、由香里の胸は高鳴った。
後ろ向きになった茜は、ゆっくり首のところの結び目をとき、背中の紐も解く…。
脱ぐ間も、シャッター音は途切れない。
「そのまま前向いてみてー」
永井が声をかける。
茜は、片手で水着が落ちないように押さえたまま、振り返る。
一斉にシャッターが切られる。
「じゃ、脱いだのこっちに。で下ねー。最初は後ろ向きでー」
茜から脱いだ水着を受け取りながら 永井が、指示をする。
茜は、また後ろ向きになり、カメラマンの方にお尻を向け、ゆっくりと脱いでいく。
予想したとおりの激しいシャッター音。さらに、カメラマンから注文が入る。
「もうちょっと、お尻付きだす感じで…」
「こっち振り返ってくださ~い」
「こっちにも、振り返ってくれる~」
そのまま、脱ぎ終わるまで、シャッター音は途絶えない。
由香里は、息をすることも忘れて、茜のその様子に見入った。
「お疲れさま~」
楽屋に戻って来た茜が服を着ているところに永井が入ってきた。
「午後、ちょっとしばり、いい?」
「いいですよ~」
「じゃ、よろしくー」
それだけ言って永井はすぐに出て行く。
(しばり…って?縛り?…)
由香里は、平然としている茜の顔を覗き込んだ。
「シバリって?あのSMの?」
由香里は思わず、口に出した。
「そうだよ~。わりと本格的にやるよ。永井さん上手なんだよ。痛くないし、殆ど痕が付かないようにやってくれるし。」
「そうなの…」
「見かけによらず…でしょ」
由香里の思いを察して、茜が先回りした。
「そうねぇ…。ああいう人が…そうなんだぁ?」
「違うわよ。永井さんは、仕事で縛ってるのよ。だから痛くない。痕も残らない。そういう趣味の人は、けっこう痛いし、痕も残るのよ。それが趣味なんだから…」
「そうか。…そうだよね」
「前に一人、中年のおじさんがいたでしょ。あまり、撮ってなかった人」
そう言えば、そういう人がいた。
他の人が、シャッターを切りまくっているときに、カメラは構えているものの、ほとんどシャッターを切らないおじさん。
「あの人はね…工藤さんっていうんだけど…痛いわよ」
「縛られたの?あの人に…」
「うん。あの人はね、本当にそういう趣味の人で…がまんのぎりぎりっていうところまでいくわね。永井さんもね、縛り方は、そのおじさんに習ったんだって…」
「ふーん、…ねぇ?ムチとか、ローソクとかって…ないよね?」
一瞬、茜は、由香里の顔を見つめ、大声で笑いだした。
「そんなのしないよ~。何言ってんのぉ~。そういうのは、写真じゃなくてプレイでしょ。」
「あはっ、そうだね」
「縛られてるから、床でゴロゴロしてるだけで、案外楽だよ。あんまり動かなくていいし。ポーズを作ることもないし…。」
「いやなら、断っても良いって言うか、最初の契約の時にNGにしとけばいいんだよ。私も最初はNGにしてたけど、やってる人に聞いたらそれほど痛くないって言うから、あとからOKにしたんだ」
茜は、興味深そうに聞く由香里に、さらに付け加えた。
ランチを軽く済ませ、楽屋に戻って来る時に、ちらっと見ると、カメラマンの数は、午前中より増えていた。その中に、工藤もいた。
「あのおじさん、午後もいるんだね?」
「うん、午前も午後もっていう人、いつも5、6人はいるよ。あの人は、ちょっと遠くから来てるみたいで、いつも残るわね」
「ふ~ん、そうなんだぁ。」
「そろそろ始めるよー。」
永井の声がした。
「は~い。何着ますか?」
「ブルーのキャミで。」
さっそく茜は着替え始めた。
スカートを脱いだ茜は、パンティーを穿いていない。
「うわ、パンティーはいてなかったの?」
由香里が、訊くと
「痕がつくからね~」
午後の撮影のために、下着の跡がつかないように配慮している茜が、また、遠いかなたにいるように感じられた。
午後の撮影も、普通にキャミのまま始まったが、しばらくして
「じゃ、ちょっとシバリいきま~す」
と、永井の声がした。由香里は、ごくっと生唾を飲み込んだ。
「最初は、着衣でー」
と言いながら、永井は、茜の頭に、予め作ってあったロープの輪を通した。
白いロープには、何ヶ所か結び目があって、首から真っ直ぐ下に降ろして、股の間を通すと、後ろから左右それぞれロープを前に回し、前で真っ直ぐ下に下がっているロープの結び目と結び目の間にそれを通し、また背中でそのロープを交差させ一度縛って、股前へ…。
由香里は、そのようすをじっと見つめた。
茜の乳房は、上下に搾られても垂れ下がることはなく、むしろくいっと上を向いた感じだ。
いつのまにか、近くにより過ぎていることに気づいて、由香里は、少し後ろに下がった。
床に仰向けになる茜。
横向きになり、うつ伏せになる。
少し膝をついてお尻を上げる。
誰かが、差し出したバンダナで目隠し。
由香里は、自分の心臓の鼓動が、シャッター音より大きく聞こえることに気づいて、さらにうしろに下がろうとしたとき、工藤と目があった。
(えっ…どうして…こっち?…わたし、何かじゃまでも…)
工藤は、縛りになっても、シャッターはあまり切ってはいない。
由香里は、壁際まで下がった。
さらに、全裸になって縛りなおされた。
「こっち座ってー」
茜は、足をイスのひじ掛けに乗せられ、そこにロープで足を拘束された。
足が大きく左右に開かれている。
2本のロープで、股間は見えないのだろうが、遠い由香里の位置では、それもはっきりとしない。
由香里は、息苦しさを覚えた。
眩暈がしそうだった。
ぎゅっと握り締めていたのだろう、手の平に汗が滲んでいる。
「びっくりしました?」
いつの間にか後ろに来ていた永井が由香里に話しかけた。
「…しました」
声がかすれている。
「別に、こういう撮影ばかりじゃないし、イヤなら、こういうのはやらなくていいんですよ。茜さんは、NGが少ない方だから、1人で1日もつんですけどね。やっぱり、色々やらないと、撮る方も飽きちゃうからねぇ」
やらなくてもいいと言いながらも、こういうのもやってくれというお願いに違いない。
「そうなんですか~」
「これ、申し込み用紙ですから、よく読んで、やってもいいと思ったら、送って下さい」
「あっ、はい」
撮影の合間なので、永井は、書類を手渡すと、すぐにまた戻って行った。
撮影が終わって、楽屋に戻ると、茜の肌には、少しロープの跡が残っていた。
由香里は、その痕を触りたいと思ったが、口には出来なかった。
由香里の日常1-3
3.気持ちいい
その日、由香里は、朝早く目が覚めた。
由香里の初仕事の日だ。
場所は、電車で1時間程度のスタジオ。
撮影は午後から…早起きする必要は全くないが、時計は、朝の6時。
(どうしよう。もう一回寝ようかな…)
ベッドルームであれこれ考え、眠れそうにはないので、結局、バスルームに向った。
時間はたっぷりある。
バスタブにお湯を張りながら、その中で、また念入りに体中をごしごしと洗った。
昨夜、寝る前にも同じように念入りに洗ったのだ。
腕も脇も首も耳も…あそことお尻は特に念入りに…。
スタジオには1時間前についた。
西崎優香、それが由香里の名前だ。
スタジオの脇に仕切られた部屋があり、その扉に名前が貼られている。
由香里は、永井に挨拶をすると、そこに入って、まずは、ポットのコーヒーを飲んだ。
ガチガチに緊張すると思っていたのに、意外なことにそれほどの緊張感は感じなかった。
(夕べのほうが、もっと緊張していたかも…)
「ユッカちゃん…だいじょうぶそうだね。もうすぐだから…そろそろ着替えて…」
心配した永井が、顔を見せたが…由香里の顔を見て、安心した表情で出て行った。
由香里は、用意されている服に着替えた。
淡いピンクのTバックにデニムのミニ。
上は、デニム地のジャケットだけ…ブラもシャツもない。
素肌に直接ジャケットを着るのは初めてだ。
初めての子はやはり緊張する。
撮影途中で、“脱いで”と言われるより、最初から、裸に近い格好のほうがいい。
永井の配慮だった。
「始めるよ」
永井の声。
(さっ…行くわよ)
ユッカが、気の弱い由香里に号令をかけた。
カメラマンは6人。
少ない。
これも永井の配慮だ。
気心の知れたベテランばかりを集めた。
(あのおじさんもいる)
由香里は、なぜか、工藤にほんの少し頭を下げた。
工藤の表情は変わらない。
永井は、簡単に由香里のことを説明したが、初めてだのなんだのという説明はない。
先日、茜を紹介したのと変わらない。
由香里は、自然と背筋を伸ばし、しっかりとカメラマンひとりひとりと視線を合わせた。
「じゃぁ…始めましょうか?」
「前屈みで…目はこっちに…」
すぐに注文が来た。
定番ともいえる格好。
それでも、由香里は、必死に構えられたカメラを目で追いかける。
「レンズじゃなくて…この辺見て」
カメラマンの一人が、カメラの横、20cmくらいのところに手をかざした。
ポーズをとっている合間にも、フラッシュがたかれ、シャッターは切られる。
(どれかに合わせるんじゃなくて、自然に…自然に…)
由香里は、頭の中で、何度も何度もそれを繰り返す。
注文されたからって、慌ててそのポーズをとらない。
自然に、そのポーズへと移行する。
その動きの中で、カメラマンがシャッターチャンスを探すんだと茜に教わった。
「ジャケット、前をはだけて…」
その声も、いくつかの注文の中のひとつだ。
由香里は、ボタンを外し、前をはだけた。
恥かしさなど感じている余裕もなかった。
横を向く。前屈みになる。後ろを向く。お尻を突き出す。
「お尻…いいねぇ…」
(えっ……)
由香里は、思わず、声の方に顔を向けた。
「あっ…そのまま…それ、いいいよ」
(褒められている…わたしが…)
恥ずかしい気持ちより嬉しさがまさった。
「座って…膝を立てて…」
ジャケットから乳房はこぼれ出ていた。
由香里は、そのことには気づいていたが、それはどうということもなかった。
が、座って、膝を立てて足を開くのは…。
しかも、すぐ近くでカメラを構えられた。
躊躇している場合じゃない。
由香里の動きが止まったのは、ほんの一瞬。
すぐに足を開いて見せた。
(わたし…できる…できるわ…)
足を開けたことが嬉しかった。
「立って…スカート脱いで…」
ジャケットではなく、スカートが先だ。
由香里は、カメラマンに背中を向け、ゆっくりとデニムのミニを下ろし始めた。
けっこうタイトだったので、急ぐとショーツごと降ろしてしまいそうで…ゆっくり慎重に降ろした。
「もっと、お尻突き出して…」
さっきお尻を褒めてくれた人だ。
シャッター音が途切れない。
(こんなに…いっぱい…)
由香里は、何枚も何枚も撮ってもらえることが嬉しかった。
ジャケットも脱いだ。
ショーツも脱いだ。
全裸になっても…、足を開いて、お尻を突き出しても…恥かしさは、ほとんど感じなかった。
ただ…ドキドキしていた。
座って、足を開いたころから…恥かしさでも、緊張でもない…胸が高鳴りだした。
苦しくはない。気分は悪くない。…気持ちよかった。
多くのシャッター音が、大勢の視線が…気持ちよかった。
「おつかれさま」
永井が、由香里の肩をたたいた。
「早く、着替えちゃお…」
由香里は、撮影が終わって、楽屋に戻っても、まだ、裸のままだった。
「は…はい」
我に帰って、由香里は慌てて服を着た。
(やれるわ…わたし…やりたい、もっと…)
いい気分だった。
「どうでした?」
永井は、工藤に話しかけた。
「まぁまぁ…かな」
工藤には、まぁまぁが最高ランクである。
「縛りもOKですよ」
永井は、書類を見ながら工藤に伝えた。
「でしょうね…」
それが分かっていたかのように工藤は、肯いた。
「そういう素質がありますか?」
「…たぶん…いや、違うかもしれないですが…」
「工藤さんでも…悩むことがあるんですね」
「よしてください。あなたのほうがよっぽどあれじゃないですか…」
工藤は、ポケットから煙草を取り出し、ロングピースに火をつけた。
由香里の日常1-4
4.野外撮影
「やがい…ですか?」
由香里は、永井の言ったことを、そのまま聞き返した?
「そう、今度の撮影会は、野外だから…」
由香里は、まだ、怪訝そうな表情のままだ。
「野外…つまり、外で撮影するってこと…」
「ああ、野外ですか?」
「そう言ってる」
「すいません」
「大丈夫?外でも…」
永井は、由香里の顔を覗き込むようにしている。
「大丈夫です。問題ありません」
3度目の撮影会が終わってのことだった。
当日、朝早く集合し、バスに乗り込んだ。
カメラマンの中には、女性もいるが、やはり、男性のほうが圧倒的に多い。
その日も、バスの中は由香里以外は、全て男性だ。
こういう状況が、由香里は気に入っていた。
由香里の家は、その地域では1,2を争う大企業を経営している。
小さい頃から、由香里の周りには、由香里を中心にした集団が出来ていた。
そのせいかもしれない。
道路脇に、石段があり、そこを降りてすぐの沢辺で撮影は始まった。
まぶしいほど、明るかった。水着の上にパーカーという格好で、由香里は、ぐるっと周りを見渡した。木々の緑と流れる水の音。
ときどき、上の道路を車の走る音がするが、下から見上げても車は見えない。
沢の反対側は、竹林で、人が歩く小路もなさそうだった。
(こんな場所、誰が探すんだろう?)
由香里は、そんなことを考えながら、パーカーをとった。
由香里の視界の中にいるのは、見知ったカメラマンだけだった。
ひとしきり水着での撮影が終わると、
「じゃぁ、脱ごうか」
いつもの声がかかった。
由香里は、背中の紐をほどいたところで、前を向き、ブラを片腕で押さえたまま、首の紐をほどいた。野外では、シャッター音もそれほど耳に響かない。
「そこの岩の上に寝そべって…」
由香里は、はずしたブラを下に敷いて、うつ伏せになった。
「顔を上げて…」
前から…
「仰向けになって…片足、膝曲げてみて…」
後ろから…
「腕で、片方だけおっぱい隠して…」
上から…
「全部取って…」
いよいよ、全裸だ。
(こんな真昼間に、外で、全裸で…いいんだろうか?…わたしが考えることじゃないか)
脱いでいる瞬間にも、シャッターは切られる。
(ああ…また来た…)
緊張でもない。羞恥でもない。ただ…胸がどきどきする。
それが何か、由香里にはもうわかっている。
外だとなおさらだった。
誰かに見られているかもしれない。カメラマンじゃない、普通の一般の人に…。
そう思うと、さらに鼓動が激しくなる。
ただ、今、その思いに浸るわけにはいかない。
後ろで物音がした。
反射的に由香里が振り返ると、道もない竹林の中から男性が二人出てきた。
すると、カメラマンが、由香里に近寄ってきて、由香里の周りに立ち、一人が、バスタオルを由香里に渡してくれた。
(隠してくれたんだぁ…)
素早く、隠してくれたものの、由香里は、しっかりとその男性たちと目があっている。
何をしているのかは、彼らにもわかったはずだ。
由香里の想像は現実のものになった。
由香里は、家に帰って、裸になってベッドに寝転びながら、今日のことを思い返していた。
外がいい。由香里はそう思った。
誰かに見られるかもしれない…それがよかった。
カメラマンが、気を利かして自分を守ってくれる…それもいい。
(やめられないわ)
由香里はそう思った。
(でも、もし、親にばれたら…)
不安もよぎる。
「まぁ、そのときはそのときよ」
ぽつりと呟いて、シャワーを浴びに行った。