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樹奈の憂鬱1-3
人妻☆じゅなの秘密日記
3.不倫相手
「ああ、水沢さん。ちょっと・・・」
用を終え、出て行こうとする水沢を向井が呼び止め、今出てきたばかりの打ち合わせ室にもう一度、邦彦を押し戻した。
「何でしょう?」
邦彦は、噂の出所が向井だと思っている。
不快な感情が顔に出た。
「そんな、怖い顔しないでくださいよ」
「忙しいんです。どんな用件ですか?」
座ろうともしない邦彦に一度座った向井も慌てて立ち上がった。
「奥さんのことなんですけど・・・・」
「妻が何か?」
「たぶん、疑われてると思うので、はっきり言いますけど、奥さんの噂を流してるのはわたしじゃありませんから・・・・」
ありませんと本人に言われて、そうですかとそれを真に受ける者は、そうはいない。
「本当にわたしじゃないですから。第一、うちは子会社ですけど、水沢さんはクライアントだし、そんな噂流したら、自分の首を締めるようなもんですし・・・」
もっともらしいいい訳だが、うっかり口を滑らせて、噂が広まったものだから、慌ててとりなしに来たと言えなくもない。
「それが用件ですか?忙しいと言ったはずですけど・・・」
妻の噂を耳にしてから、邦彦は、妻をじっと観察するようになった。
いつも通りになにげないふりをしながら、樹奈が、一日何をしていたのか、どこへ行ったのか探った。
樹奈が眠ったのを確認して、樹奈の持ち物も、携帯もチェックした。
そして見つけた。
浮気の証拠ではない。
それは、CDに収められた、樹奈の写真。
ほとんどが裸だった。
それはCDケースの中に、他の音楽CDといっしょに入っていた。
邦彦は、その画像を全て自分のパソコンに落とした。
いつ、誰がそれを撮ったのかはわからない。
それを訊くことも出来ない。
邦彦は、妻の真実を知りたい気持ちでいっぱいだったが、目の前の向井にそれを訊くのはためらわれた。
もし、この男が噂を流しているとしたら、そんな男に妻のことなど訊けない。
訊けば、それも噂になってしまう。
邦彦は、噂も向井も無視していたのだ。
「はぁ・・・。すいません。お忙しいのに呼び止めて・・・・」
向井は、邦彦の傲慢な言い方に少しむっとした表情だったが、一応非礼を詫びた。
「それだけなら、わたしはこれで・・・・」
出て行こうとする邦彦に向井が言った。
「ああ、水沢さんのところに派遣の社員がいるでしょ。西川穂波って言う子。彼女、前の会社にも2年くらい派遣で来てましたよ。噂は、きっと、彼女ですから・・・・」
西川穂波、3ヶ月前から派遣で来ている女性だ。
向井の言うとおり噂の出所は、彼女なのかもしれない。
邦彦は、気が滅入った。
樹奈と同じ会社にいたものなら誰でも知っているとでも言わんばかりの向井の言い方。
(誰でも知ってるっていうことか?)
邦彦がオフィスに戻ると、ちょうど終業時刻だった。
デスクの上を片付けている穂波と目が合った。
彼女は、軽く会釈をした。
それだけだ。
「主任、お先に失礼します」
口々に挨拶をして、ほとんどが帰っていったが、増井がコーヒーを持ってやってきた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう。ああ、資料、まだ見てないや。これから目を通すから・・・」
「見てもらえます?・・・じゃぁ、待ってます」
「そう。悪いね・・・じゃぁ、すぐ見るから・・・」
増井も自分のコーヒーを持って、邦彦の横に座った。
「今日、俺が怖いって言ってよね」
ディスプレイを見ながら、邦彦が話しかける。
「・・・すいません」
「謝らなくてもいいよ。俺は、気がつかなかった。みんなも気を遣ってるんだね。俺に・・・」
「はい。企画会議が近づいて、主任が、パソコンに向かってるときは、もう、みんな・・・シーン・・・です」
「みたいだね。増井に言われて、初めて気がついたよ」
「でも、シーンとしていたほうが、わたしはありがたいです。ザワザワしてると気が散るので・・・」
「でも、息が詰まる人もいるんだろうな、きっと・・・・」
「さぁ・・・よくわかりませんけど・・・・」
美香も気を遣っている。
「これ・・・なかなか見やすいし、よくできてるよ。OKだね」
「そうですか?・・・・よかったぁ」
「うん。だいじょうぶ。OKだ。ご苦労さん。もう帰っていいよ」
「ありがとうございます。主任は?」
「ああ、俺は、まだまだ帰れそうにない」
「何か、お手伝いしましょうか?・・・・わたしができれば・・・ですけど・・・」
美香の携帯が小さな着信音を立てた。
「ありがと。・・・・でも、いいよ。デートの邪魔しちゃ申し訳ない」
「デート?・・・違いますよ。そんなんじゃないです。主任こそ、奥さんが待ってますよ」
「・・・・・待ってないよ・・・」
邦彦のあまりのトーンダウンした言い方に、美香はまずいことを言ったと後悔したが、それが表情に出た。
「妻の噂・・・聞いてるんだろ?」
「えっ・・・は?・・・・何でしょう?」
聞いてはいるが、はいとは返事は出来ない。
「知らないのか?」
「えっ・・・は、はぁ・・・・いえ、聞いてます」
美香はあまりにうろたえすぎて、知らないとは言えなくなってしまった。
「元の会社の上司と不倫をしてて、今も続いている」
邦彦が、自分から話した。
「はい・・・・」
まるで、悪いことをして叱られているように、体を小さくして、美香はうつむいた。
(ばか、わたしったら・・・・。もう、本当にドジ・・・・)
美香は、帰るタイミングを逸してしまった。
邦彦も自分が怒っているように思われるのではないかと気を遣って、美香に“帰れ”と言いにくくなった。
「西川さんから聞いたの?」
美香は、黙ってうなずいた。
「そう?・・・他には?・・・・妻の不倫した相手って誰なの?知ってる?」
「よくは知らないですけど・・・。竹内部長とかって言ってました」
「そうなの・・・」
邦彦は、わざとらしいほどの平然な顔を作ったが、平然でないことは、美香にもわかった。
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