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晴美の就活1-6
「やった。ほらね」
1か月分のすべての範囲から出題した問題に健作はすべて正解した。
「すごーい」
晴美は素直に褒めた。
「…だろ?」
「…だね」
「約束だぜ」
「そうだね。しょうがないな」
「スタジオ予約するけど、いつがいい?」
「いつって言うか、時間のほうが問題」
「土曜日の午後は?午前中は、塾でテストなんだけど、午後は大丈夫だから…」
「土曜日かぁ…」
(空いてるけど…どうしよう。…でも、土曜日の塾のテストが大事だし)
「わかった。OKよ。でも、テストちゃんと頑張るのよ。もし、成績が下がったら、もう撮影はなしよ」
晴美は思いつくまましゃべってしまったが、健作は聞き逃さなかった。
「そう、じゃぁ成績が上がったら、また撮影させてくれる?」
「何それ、そんな約束してないわよ」
「いいじゃない」
(そうよね。単語テストよりも塾の試験のほうが大事だし…)
「わかったわ。じゃぁ、東大選抜コースで20番以内」
「バカ言うなって。そんなの無理に決まってるじゃん。英語の偏差値にしてよ」
「偏差値?」
「そう。…そうだね、54を越えるってのは?」
「60」
「だから無理だって、塾内のテストだよ。一般は入ってないんだから…」
「だってこの前のテスト偏差値53だったじゃない。54は甘いわよ」
「じゃぁ、真ん中で57ってのは?」
「58」
「わかったよ。じゃぁ、58。そのかわり、どんな格好でもNGはなしだよ」
「裸はだめよ」
晴美はつい思ったことが口に出た。
「そんなの撮らないって、裸ってどんなコスプレだよ」
健作にそう言われて、恥ずかしくてすぐに話題を変えた。
「でも、衣装、どうするの?持ってるの?」
「まさか、持ってるわけないだろ。レンタル」
「レンタル?」
「そう、そのスタジオにいっぱい置いてある」
「そうなの?」
「先生は、標準的なサイズっぽいから、問題ないよ」
健作の視線は晴美の胸の上だ。
「どこ見て言ってるのよ」
「えっ。小柄なのに、胸だけおっきいと服に困るだろ」
「悪かったわね。標準で…」
「標準だからよかったって言ってるんだろ」
「褒めてないわよ」
「褒めてないけど…」
「こいつ」
時間が来て健作の部屋を出ると、居間で美代子が待っていた。
「主人、帰りが遅くて、ごめんなさいね。今度までに話しとくから…」
「はい、お願いします」
「ねぇ」
「はい?」
「メイド喫茶って、テレビで見るようなあんなヨーロッパ風な衣装を着てたの?」
「えっ、ええ、まぁ」
「あれって、店のほうで用意してくれるの?」
「ええ」
「じゃぁ、あなたが持ってるわけじゃないのね」
「はい…どうかしましたか?」
「いえ、あなたかわいいから、きっとああいうの似合うんだろうなって思って…」
「似合ってたかどうかは…」
「好きなの、ああいう格好?」
「はい」
(うっ、まずいかも)
「まぁ、どちらかというとかわいい格好が好きなんですけど…」
「そう。それでアルバイトを?」
「はい、あんな格好、どこででもできるっていうもんでもないし…」
「そうよね。普段着られる服でもないわね」
「…です。まぁ、ああいうところででもないと絶対に無理ですから…」
「なんか、話してると、あなたのああいう格好が見てみたくなったわ。きっとかわいいんでしょうね」
「いえ、そんな…」
「写真とかお持ちじゃないの?」
「いえ、持ってません」
持ってはいるが、そうも言えない。
「そうなの。…でも、いいわね。若いから、年取ったら、絶対に出来ないわよ。あんな格好」
「そんなことないです。奥様…」
(奥様にメイド服って、ああ、どうしよう。ばか、わたしったら…)
「わたしでもだいじょうぶって?ありがとう」
(よかった。気を悪くはしてないようだわ)
「ねぇ、お昼暇なときってないの?」
「お昼…ですか?」
「そうよ。わたし、昼間はけっこうひとりの時間が長くて、よかったらいっしょにランチでもどうかと思って…」
「ありがとうございます。火曜日と木曜日以外でしたら、授業は無いので、だいじょうぶです」
「そう。じゃぁ、電話で誘っていいかしら?」
「はい。いつでも…」
「そうお、よかった。じゃぁ、電話させていただくわ」
「お願いします」
奥さんを味方にすること。
それも価値教師の鉄則らしい。
菜月にそう教わった。
自分に好意的な美代子の言葉に晴美は、来たときとは全く違う軽い気分でアパートに向った。
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