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由香里の日常1-3
3.気持ちいい
その日、由香里は、朝早く目が覚めた。
由香里の初仕事の日だ。
場所は、電車で1時間程度のスタジオ。
撮影は午後から…早起きする必要は全くないが、時計は、朝の6時。
(どうしよう。もう一回寝ようかな…)
ベッドルームであれこれ考え、眠れそうにはないので、結局、バスルームに向った。
時間はたっぷりある。
バスタブにお湯を張りながら、その中で、また念入りに体中をごしごしと洗った。
昨夜、寝る前にも同じように念入りに洗ったのだ。
腕も脇も首も耳も…あそことお尻は特に念入りに…。
スタジオには1時間前についた。
西崎優香、それが由香里の名前だ。
スタジオの脇に仕切られた部屋があり、その扉に名前が貼られている。
由香里は、永井に挨拶をすると、そこに入って、まずは、ポットのコーヒーを飲んだ。
ガチガチに緊張すると思っていたのに、意外なことにそれほどの緊張感は感じなかった。
(夕べのほうが、もっと緊張していたかも…)
「ユッカちゃん…だいじょうぶそうだね。もうすぐだから…そろそろ着替えて…」
心配した永井が、顔を見せたが…由香里の顔を見て、安心した表情で出て行った。
由香里は、用意されている服に着替えた。
淡いピンクのTバックにデニムのミニ。
上は、デニム地のジャケットだけ…ブラもシャツもない。
素肌に直接ジャケットを着るのは初めてだ。
初めての子はやはり緊張する。
撮影途中で、“脱いで”と言われるより、最初から、裸に近い格好のほうがいい。
永井の配慮だった。
「始めるよ」
永井の声。
(さっ…行くわよ)
ユッカが、気の弱い由香里に号令をかけた。
カメラマンは6人。
少ない。
これも永井の配慮だ。
気心の知れたベテランばかりを集めた。
(あのおじさんもいる)
由香里は、なぜか、工藤にほんの少し頭を下げた。
工藤の表情は変わらない。
永井は、簡単に由香里のことを説明したが、初めてだのなんだのという説明はない。
先日、茜を紹介したのと変わらない。
由香里は、自然と背筋を伸ばし、しっかりとカメラマンひとりひとりと視線を合わせた。
「じゃぁ…始めましょうか?」
「前屈みで…目はこっちに…」
すぐに注文が来た。
定番ともいえる格好。
それでも、由香里は、必死に構えられたカメラを目で追いかける。
「レンズじゃなくて…この辺見て」
カメラマンの一人が、カメラの横、20cmくらいのところに手をかざした。
ポーズをとっている合間にも、フラッシュがたかれ、シャッターは切られる。
(どれかに合わせるんじゃなくて、自然に…自然に…)
由香里は、頭の中で、何度も何度もそれを繰り返す。
注文されたからって、慌ててそのポーズをとらない。
自然に、そのポーズへと移行する。
その動きの中で、カメラマンがシャッターチャンスを探すんだと茜に教わった。
「ジャケット、前をはだけて…」
その声も、いくつかの注文の中のひとつだ。
由香里は、ボタンを外し、前をはだけた。
恥かしさなど感じている余裕もなかった。
横を向く。前屈みになる。後ろを向く。お尻を突き出す。
「お尻…いいねぇ…」
(えっ……)
由香里は、思わず、声の方に顔を向けた。
「あっ…そのまま…それ、いいいよ」
(褒められている…わたしが…)
恥ずかしい気持ちより嬉しさがまさった。
「座って…膝を立てて…」
ジャケットから乳房はこぼれ出ていた。
由香里は、そのことには気づいていたが、それはどうということもなかった。
が、座って、膝を立てて足を開くのは…。
しかも、すぐ近くでカメラを構えられた。
躊躇している場合じゃない。
由香里の動きが止まったのは、ほんの一瞬。
すぐに足を開いて見せた。
(わたし…できる…できるわ…)
足を開けたことが嬉しかった。
「立って…スカート脱いで…」
ジャケットではなく、スカートが先だ。
由香里は、カメラマンに背中を向け、ゆっくりとデニムのミニを下ろし始めた。
けっこうタイトだったので、急ぐとショーツごと降ろしてしまいそうで…ゆっくり慎重に降ろした。
「もっと、お尻突き出して…」
さっきお尻を褒めてくれた人だ。
シャッター音が途切れない。
(こんなに…いっぱい…)
由香里は、何枚も何枚も撮ってもらえることが嬉しかった。
ジャケットも脱いだ。
ショーツも脱いだ。
全裸になっても…、足を開いて、お尻を突き出しても…恥かしさは、ほとんど感じなかった。
ただ…ドキドキしていた。
座って、足を開いたころから…恥かしさでも、緊張でもない…胸が高鳴りだした。
苦しくはない。気分は悪くない。…気持ちよかった。
多くのシャッター音が、大勢の視線が…気持ちよかった。
「おつかれさま」
永井が、由香里の肩をたたいた。
「早く、着替えちゃお…」
由香里は、撮影が終わって、楽屋に戻っても、まだ、裸のままだった。
「は…はい」
我に帰って、由香里は慌てて服を着た。
(やれるわ…わたし…やりたい、もっと…)
いい気分だった。
「どうでした?」
永井は、工藤に話しかけた。
「まぁまぁ…かな」
工藤には、まぁまぁが最高ランクである。
「縛りもOKですよ」
永井は、書類を見ながら工藤に伝えた。
「でしょうね…」
それが分かっていたかのように工藤は、肯いた。
「そういう素質がありますか?」
「…たぶん…いや、違うかもしれないですが…」
「工藤さんでも…悩むことがあるんですね」
「よしてください。あなたのほうがよっぽどあれじゃないですか…」
工藤は、ポケットから煙草を取り出し、ロングピースに火をつけた。