スポンサーサイト
新しい記事を書く事で広告が消せます。
由香里の日常1-2
2.見学
朝早く、茜に連れられて、由香里もスタジオに入った。
「おはようございま~す」
茜の慣れたあいさつに、少し気後れしながら、由香里は、茜の後ろにくっつくようにスタジオ脇の事務所に寄った。
「永井さん、昨日話してた由香里ちゃん。見学したいって言ってた子」
「初めまして、由香里です」
由香里は、永井にあいさつをした。40歳くらいだろうか、ごく普通のおじさんという感じの男だ。
「ああ、永井です」
永井は、由香里に名刺を渡した。
永井晴樹。
名刺などもらったことのない由香里は、どうしていいのかわからず、
「邪魔にならないようにしてますので、よろしくお願いします」
と、再度、頭を下げた。
「そんなに緊張しないで…堅苦しいもんじゃないから…。じゃあ、9時から始めますから、それまで、あっちでコーヒーでも飲んでて下さい。始まったら、カメラマンの後ろなら、多少動き回っても大丈夫だけど、みんなの荷物があるから、それだけ注意して…。みんなはスタジオの人だと思うだろうから、平気だよ」
「誰かに話しかけられたら、私のメーク係だって言えばいいよ」
茜が不安そうな表情の由香里にそう言うと
「ああ、それでもいいかも。あかりちゃんにハクが付くしね」
永井は、そう言って笑いながら、奥の部屋に入っていった。
ふーっ
自分では、緊張していないつもりだったが、永井がいなくなって茜と二人になると、由香里は小さく溜息をついた。
「なーに、緊張してんの?モデルはわたしだよ。写真撮られるのはわたし。わかってる?」
茜は、ポットに用意されたコーヒーを紙コップに注いで、由香里に渡した。
「それからね、誰かに、名前とか色々、教えちゃダメだよ。私だって、何度も撮影会やってるけど、プライベートな事は、教えないようにしてるし…」
「やっぱり、なんか危ないこともあるの?」
「ここの撮影会は、そんなこともないんだけど…、イベントのような撮影会だと、後で、直接、モデルやってくれないかって電話が入ったりするみたい」
「ふーん…だめなの?」
「事務所を通す通さないじゃなくて…何されるかわかんないでしょ」
「あっ、そうか」
そんな当たり前のことを、今更のように納得する由香里に、茜はいつもの呆れ顔で言う。
「もう、由香里は…」
後は言わなくてもわかっている。
時間が経つにつれ、カメラマンたちが集まって来た。
永井が出て、彼らと話をしている。
由香里は、少し離れた位置でそれを見ていた。
「おはようございまーす」と普通にあいさつがあって、カメラマンどうし笑いながら雑談をしている。
釣りとか、キャンプに行く待ち合わせのような雰囲気だ。
由香里は、ヌードを撮られる側はもちろん、撮る側も恥かしいんじゃないかと勝手な想像をしていたのだが、現実は全く違った。
モデルの茜も含めて、そこには、全く何の緊張感も無い。
緊張しているのは、ただひとり、自分だけだった。
「始めるよー」
永井が、扉の隙間から、顔だけ出して伝える。
「はーい」
茜が出て行き、まずは、水着での撮影が始まった。
カメラマンは10人くらい、とぎれることのないシャッター音とストロボの光に由香里は圧倒された。
茜は、自由にポーズを変えていく。周りを囲むカメラマンにまんべんなく顔を向け、髪をかき上げ、振り乱し、さらに、時々かかるカメラマンの声にも即座に対応して見せた。
自分なら悩むような注文にも瞬時に応じる茜を由香里はじっと見つめていた。
「じゃ、そろそろ水着とろうかー」
頃合を見て、永井が声をかける。
ヌード撮影会なのだから当たり前のことなのに…脱ぐと思った瞬間に、由香里の胸は高鳴った。
後ろ向きになった茜は、ゆっくり首のところの結び目をとき、背中の紐も解く…。
脱ぐ間も、シャッター音は途切れない。
「そのまま前向いてみてー」
永井が声をかける。
茜は、片手で水着が落ちないように押さえたまま、振り返る。
一斉にシャッターが切られる。
「じゃ、脱いだのこっちに。で下ねー。最初は後ろ向きでー」
茜から脱いだ水着を受け取りながら 永井が、指示をする。
茜は、また後ろ向きになり、カメラマンの方にお尻を向け、ゆっくりと脱いでいく。
予想したとおりの激しいシャッター音。さらに、カメラマンから注文が入る。
「もうちょっと、お尻付きだす感じで…」
「こっち振り返ってくださ~い」
「こっちにも、振り返ってくれる~」
そのまま、脱ぎ終わるまで、シャッター音は途絶えない。
由香里は、息をすることも忘れて、茜のその様子に見入った。
「お疲れさま~」
楽屋に戻って来た茜が服を着ているところに永井が入ってきた。
「午後、ちょっとしばり、いい?」
「いいですよ~」
「じゃ、よろしくー」
それだけ言って永井はすぐに出て行く。
(しばり…って?縛り?…)
由香里は、平然としている茜の顔を覗き込んだ。
「シバリって?あのSMの?」
由香里は思わず、口に出した。
「そうだよ~。わりと本格的にやるよ。永井さん上手なんだよ。痛くないし、殆ど痕が付かないようにやってくれるし。」
「そうなの…」
「見かけによらず…でしょ」
由香里の思いを察して、茜が先回りした。
「そうねぇ…。ああいう人が…そうなんだぁ?」
「違うわよ。永井さんは、仕事で縛ってるのよ。だから痛くない。痕も残らない。そういう趣味の人は、けっこう痛いし、痕も残るのよ。それが趣味なんだから…」
「そうか。…そうだよね」
「前に一人、中年のおじさんがいたでしょ。あまり、撮ってなかった人」
そう言えば、そういう人がいた。
他の人が、シャッターを切りまくっているときに、カメラは構えているものの、ほとんどシャッターを切らないおじさん。
「あの人はね…工藤さんっていうんだけど…痛いわよ」
「縛られたの?あの人に…」
「うん。あの人はね、本当にそういう趣味の人で…がまんのぎりぎりっていうところまでいくわね。永井さんもね、縛り方は、そのおじさんに習ったんだって…」
「ふーん、…ねぇ?ムチとか、ローソクとかって…ないよね?」
一瞬、茜は、由香里の顔を見つめ、大声で笑いだした。
「そんなのしないよ~。何言ってんのぉ~。そういうのは、写真じゃなくてプレイでしょ。」
「あはっ、そうだね」
「縛られてるから、床でゴロゴロしてるだけで、案外楽だよ。あんまり動かなくていいし。ポーズを作ることもないし…。」
「いやなら、断っても良いって言うか、最初の契約の時にNGにしとけばいいんだよ。私も最初はNGにしてたけど、やってる人に聞いたらそれほど痛くないって言うから、あとからOKにしたんだ」
茜は、興味深そうに聞く由香里に、さらに付け加えた。
ランチを軽く済ませ、楽屋に戻って来る時に、ちらっと見ると、カメラマンの数は、午前中より増えていた。その中に、工藤もいた。
「あのおじさん、午後もいるんだね?」
「うん、午前も午後もっていう人、いつも5、6人はいるよ。あの人は、ちょっと遠くから来てるみたいで、いつも残るわね」
「ふ~ん、そうなんだぁ。」
「そろそろ始めるよー。」
永井の声がした。
「は~い。何着ますか?」
「ブルーのキャミで。」
さっそく茜は着替え始めた。
スカートを脱いだ茜は、パンティーを穿いていない。
「うわ、パンティーはいてなかったの?」
由香里が、訊くと
「痕がつくからね~」
午後の撮影のために、下着の跡がつかないように配慮している茜が、また、遠いかなたにいるように感じられた。
午後の撮影も、普通にキャミのまま始まったが、しばらくして
「じゃ、ちょっとシバリいきま~す」
と、永井の声がした。由香里は、ごくっと生唾を飲み込んだ。
「最初は、着衣でー」
と言いながら、永井は、茜の頭に、予め作ってあったロープの輪を通した。
白いロープには、何ヶ所か結び目があって、首から真っ直ぐ下に降ろして、股の間を通すと、後ろから左右それぞれロープを前に回し、前で真っ直ぐ下に下がっているロープの結び目と結び目の間にそれを通し、また背中でそのロープを交差させ一度縛って、股前へ…。
由香里は、そのようすをじっと見つめた。
茜の乳房は、上下に搾られても垂れ下がることはなく、むしろくいっと上を向いた感じだ。
いつのまにか、近くにより過ぎていることに気づいて、由香里は、少し後ろに下がった。
床に仰向けになる茜。
横向きになり、うつ伏せになる。
少し膝をついてお尻を上げる。
誰かが、差し出したバンダナで目隠し。
由香里は、自分の心臓の鼓動が、シャッター音より大きく聞こえることに気づいて、さらにうしろに下がろうとしたとき、工藤と目があった。
(えっ…どうして…こっち?…わたし、何かじゃまでも…)
工藤は、縛りになっても、シャッターはあまり切ってはいない。
由香里は、壁際まで下がった。
さらに、全裸になって縛りなおされた。
「こっち座ってー」
茜は、足をイスのひじ掛けに乗せられ、そこにロープで足を拘束された。
足が大きく左右に開かれている。
2本のロープで、股間は見えないのだろうが、遠い由香里の位置では、それもはっきりとしない。
由香里は、息苦しさを覚えた。
眩暈がしそうだった。
ぎゅっと握り締めていたのだろう、手の平に汗が滲んでいる。
「びっくりしました?」
いつの間にか後ろに来ていた永井が由香里に話しかけた。
「…しました」
声がかすれている。
「別に、こういう撮影ばかりじゃないし、イヤなら、こういうのはやらなくていいんですよ。茜さんは、NGが少ない方だから、1人で1日もつんですけどね。やっぱり、色々やらないと、撮る方も飽きちゃうからねぇ」
やらなくてもいいと言いながらも、こういうのもやってくれというお願いに違いない。
「そうなんですか~」
「これ、申し込み用紙ですから、よく読んで、やってもいいと思ったら、送って下さい」
「あっ、はい」
撮影の合間なので、永井は、書類を手渡すと、すぐにまた戻って行った。
撮影が終わって、楽屋に戻ると、茜の肌には、少しロープの跡が残っていた。
由香里は、その痕を触りたいと思ったが、口には出来なかった。