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由香里の日常1-1
Baby Doll Baby
Baby dollⅠ 由香里の日常
第1章
1.勧誘
「ねぇ茜、明日、水着買いに行くの付き合って・・・」
葛城由香里は、大学の講義を終えて、ラウンジで友人の西野茜に話しかけた。
「明日かぁ・・・、ごめん、明日は、撮影なんだ」
茜は、バイトでヌードモデルをしている。
「そっかー」
「ねぇ、由香里。話し変るけど・・・あんたも、モデルやってみない?」
「モデルって・・・茜のところの?」
「うん。マネージャにね。誰かいい子いないかって、相談されたの。なんか、会員が増えて、モデルがけっこういるらしいのね」
「会員?」
「ああ、登録しているカメラマンさんのこと」
「カメラマンって登録制なの?」
「そうよ。どこのだれだかわかんない人じゃ、何されるかわかったもんじゃないわ。裸なのよ」
「そう・・・だね」
「会員の紹介がないと会員にはなれないの」
「ふーん」
「で、どうぉ?」
「どうって・・・急に言われても・・・・」
由香里は、地方都市だが、そこでは1.2を争う建設会社の娘で、どちらかというと、少し世間には疎かった。茜のバイトは、本人からときどき話しを聞かされている。興味がないことはなかったが、自分もやってみようという気にはならなかった。と言うよりは、自分にそんなことができるとはとても思えなかった。
「別に、急ぐ話じゃないから・・・・、ちょっと、考えてみてよ」
茜は、そんなに強引には勧誘はしなかった。茜自身、誘ってはみたものの、たぶん、無理だろうと思っていたので、適当に話を打ち切った。
「なに、それ?」
茜が、見慣れない雑誌を持っている。
「あっ、これ?・・・わたしが出てるの」
月刊の写真雑誌のようだった。
「茜が出てるの?どこ?見せて・・・」
茜は、すぐさま、そのページを開いて見せてくれた。
(うわぁっ・・・・・・)
「・・・きれい・・・・」
正直な感想だった。顔ははっきり写ってはいないものの、それは確かに彼女のヌードで・・・。由香里は茜の裸を見たことがなかったので、実物との比較はできなかったが、それでも、とても目の前で、自販機のコーヒーを飲んでいる茜とは思えない。
「きれいでしょ。これね、アマチュアの写真コンテストで入賞した作品なの」
茜の話を聞いているのかいないのか、由香里の返事はない。
「撮影会でね、他にも3人くらいいたんだけど・・・この人は、もうベテランで何度も入選してるらしいわ」
「撮影会って?」
由香里は、ようやく視線を茜に戻した。
「事務所がね、いついつどこそこで撮影会をやります。モデルは誰それって募るのよ」
「そうなの?1対1で撮るんじゃないの?」
「そういうときもたまにはあるけど・・・何人かで撮ったほうが安上がりでしょ。アマチュアだからね」
「そうか・・・」
由香里は、屋外で、大勢のカメラマンに囲まれている茜の姿を想像したつもりだったが、なぜかそこには茜ではなく、裸の自分がいた。
(やだ・・・わたし・・・・)
大勢の視線を浴びている自分を想像して、恥かしさに胸が震えた。
「大勢で・・・恥かしくない?」
「最初はね。でも、すぐに慣れるわよ。すぐ。それに、恥かしいのは1人も5人もいっしょよ」
「そう・・・なの?」
「そりゃ、そうよ。むしろ、一人のほうが恥かしいかもね・・・」
「そんなもの?」
「大勢だと、完全に仕事っていう感じだけど・・・ひとりだと、なんかね・・・それにやっぱり、一人だとちょっと、不安」
「不安って?」
「後ろから撮られてるときなんか・・・無防備でしょ」
「ああ・・・そんなこともあるの?」
「ないわよ・・・だって、身元も何もかも分かってるわけだから・・・・。そうはわかっててもね、まぁ、気分の問題よ」
「そうかぁ・・・」
由香里には、全く想像もできない世界の話だった。
「そうだ。興味があるんなら、一度来てみる?」
意外にも脈のありそうな由香里に、茜もその気になって誘ってみた。
「行っていいの?」
「だいじょうぶよ。今度の土曜日、私の撮影会だから・・・・。見たら、色々分かるし。場所は、○○のスタジオだから、簡単に行けるし・・・そうしてみたら?」
「見学・・・?」
「そう・・・見学。見てみないと、話だけじゃわかんないでしょ。意外と面白いと思うかもしれないし・・・」
(茜のヌード撮影の現場・・・見たいし・・・場所も遠くないし・・・・)
由香里は、知らず知らず、臆病な自分自身の説得を始めていた。
「わかった。じゃぁ、行ってみる。いい?・・・じゃまなら、そう言ってよ」
「うん。わかった。じゃぁ、マネージャーに言っとくわ」
見学に誘われただけなのに、気分が高揚してしまっている由香里に対して茜は、全く普通の調子で、そう言って、用があるからとそそくさと出て行った。
(茜・・・自分の写真なのに・・・きれいでしょって・・・・)
写真の良し悪しをただコメントしただけといった感じの茜の話し方が、由香里には、バカ話をして笑い転げている普段の茜とは全くかけ離れて聞こえた。茜が、自分よりはるかに大人な感じがして・・・。
由香里は、その同じ世界に入りたいと思った。
由香里がいなくなって、ひとり、由香里は、大勢の人に囲まれている裸の自分を再び想像した。
また、胸がドキドキし始めた。
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