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由香里の日常
デイリーライフ
プロローグ
「やだ…」
激しい夕立だった。
学校を出るときは、うだるような暑さの中。
それが、急に暗くなったかと思うと…
由香里は、高校に自転車で通っていた。家まで、後10分程度の距離が残っていた。
傘もレインコートも持ってはいない。
(どこかで雨宿り…って、そんな場所ないし…しょうがない)
由香里は自転車のスピードを上げたが、すごい雨と…雷。
ほんの数秒で、後悔した。
(ああ、だめだ。…冷たい…あそこ…)
由香里は、パチンコ店の入り口横に自転車を止めて、雨がやむのを待った。
かろうじて、雨は避けられたが、ただ、突っ立ているだけだ。中に入るわけにはいかない。
駐車場に車を止めた客が、由香里の前を通ってパチンコ店に入っていく。皆、同様に由香里を見る。確かに女子高生が立っているような場所ではないが…。
雨宿りだ、そんなに不自然ということもないはずだ。
あまりに露骨にジロジロ見られるので、由香里は、少し、腹が立ってきた。
(なに…じろじろ見ないでよ。しょうがないでしょ、雨なんだから…)
由香里は、ハンカチで濡れた髪の毛を拭きながら、店の中のほうに向きを変えた。
平日の昼間だというのに、けっこうお客が入っている。
さっき入って行った客は、まだ、こっちを見ている。
(何よ…じろじろと…)
やがて、他の客の一人も、こっちを向いた。
また、ひとり…また、ひとり…
(なんなのよ。全く…見ないでよ…)
視線を嫌って、向きを変えた由香里の目の先にウインドーのガラスに映った自分がいた。
(えっ…うそっ…)
夏用の制服は、白のブラウスにライトブルーのスカート。
びしょ濡れのブラウスは、その下のブラともどもぴったり肌にくっつき、乳首までくっきりと浮き上がっている。
(わたし、この格好で…いやーっ…)
まだ雨は、激しかったが、由香里は慌てて自転車に乗った。
恥かしさで心臓が飛び出しそうだ。
さらに、雨に打たれ、自分でもブラウス越しに自分の肌が見える。
もう、裸も同然だった。
傘を差した高校生らしい男の子が、じっと見ている。
由香里は、片手で胸を押さえた。
大粒の雨で、目を開けていられない。
由香里が左に曲がろうとしたそこに横からすっと傘が伸びてきた。
「きゃっ…」
避けようとして、歩道の縁石に乗った。
自転車の前輪が跳ね、片手ではバランスが取れなかった。
由香里は転んで、濡れた歩道にお尻を突いた。
起き上がろうと後ろについた手が滑った。
あろうことか、由香里は、雨の中、歩道に仰向けになってしまった。
「ごめん…だいじょうぶ?」
傘を出したのは、ランドセルを背負った少年だった。
少年ふぁ、仰向けの由香里を上から覗き込む。
(見ないで…見ないで…)
少年が、転んだ由香里に手を差し出すのを制して由香里は、上半身を起した。
「だいじょうぶよ…」
とは、言ったが、どこかで強く膝を打ったようで…立ち上がれない。
通行人が、立ち止まって覗き込んでくる。
(見ないで…行って…行ってよ)
痛みがやわらぎ、ようやく由香里が立ち上がると、それまで、横で傘をさしかけてくれていた少年は、由香里に傘を渡し、倒れた自転車を起してくれた。
「自転車は…だいじょうぶみたい」
「ありがとう…」
「ううん…」
少年は、その後に何か言おうとしていたが、由香里は、傘を返すと、急いでまた、自転車に乗った。
いつのまにか、数人のひとだかりができている。
由香里は、一刻も早くそこから逃れたかった。
裸同然の格好なのだ。
逃げるように由香里は、自転車をこぎだした。
肘も強打したようで、もう片手で胸を隠せない。
由香里は、上半身、ほとんど裸に近い格好で、家まで10分、自転車を走らせた。
何人とすれ違っただろう。
すれ違った男性のほとんどが、由香里をじっと見、女性のうちの何人かは、心配そうな目で由香里の顔を見た。
恥かしかった。
恥かしくて…恥かしくて…恥かしくて…
胸がドキドキした。