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知美の恋人1-8
8.贈り物
携帯の音が遠くで聞こえている
佳美は、目を開けた。
「うっ」
起き上がろうとして、お腹に激痛が走った。
(何?)
携帯の音は、すぐ近くだ。
佳美は、携帯をとった。
“もしもし”
“辰夫です。メールを送ったので見といてください”
辰夫はそれだけ言って、一方的に電話を切った。
(辰夫…?)
佳美は、わけがわからないままメールを見た。
“メリークリスマス
あなたの身体に贈り物をしました。
明後日、うちに来てください。
それまで、それを消さないように。
もし、消えてたら、すべてを知美に伝えます“
佳美は、ようやく思い出した。
(お腹を殴られて…)
でも、なぜベッドにいるのか?
しかも裸だ。
殴られた後のことがわからない。
(身体に贈り物って…、まさか?)
佳美は、起き上がった。
寒いが、その前に確かめなければいけない。
佳美は、裸のままベッドに座って、股間に指を入れようとしてやめた。
(何?)
太ももにマジックで字が書いてある
“辰夫”
左も右も…
太ももだけではない。
下腹部にも
佳美は鏡の前に立った。
左右の乳房にも
(これを消すなっていうこと?)
佳美は、“身体に贈り物をした”と言われて、てっきり中に出されたと思った。
だが、違った。
辰夫が佳美の身体に残したのは、“辰夫”という名前だけ
“俺が別れさせてやる”
辰夫の言葉を思い出した。
確かに。
これで他の男に抱かれることはできない。
(辰夫さん…)
なぜか涙がこみ上げてきた。
「ただいま」
待ちわびていたのだろう。
辰夫が帰ると知美が駆け寄ってきた。
「おかえりーっ」
こんなに嬉しそうに“おかえり”と言われると、思わず心が和む。
「今日、泊まっていいよ」
コンビニの買い物袋をテーブルに置きながら、辰夫は知美にそう告げた。
「いいの?本当?お母さんがそう言ったの?」
「お前にごめんなさいって謝ってた」
辰夫は知美の質問には答えずに話を変えた。
「だめよ。いまさら何言ったって…」
「男と別れろって言っといた」
「男のこと、話したの?」
「お前から聞いたとは言ってない。いろいろ問い詰めたら自分から言った」
「何て?」
「だいたいお前の言ってた通りだ」
「そうなの?」
「ケーキ買ってきた」
辰夫は佳美の話を軽く流して切り上げた。
深刻なことを深刻に話しても深みにはまるだけだ。
「ケーキ?」
「コンビニのだけどいいか?」
「いい。いい。全然いい」
「シャンパン飲むか?」
「そんなのも買ったの?」
「ああ、クリスマスだからな」
「でも、わたし、中学生だぞ」
知美はわざとしかめ面をして見せた。
「紅茶も買ってきたけど…」
「うそだってば。飲むよ、シャンパン」
誕生日もクリスマスも楽しかった思い出は何もない。
知美には、佳美のことなどもうどうでもよかった。
シャンパンのせいか、知美はよくしゃべった。
ようやく話が途切れたとき、辰夫はテーブルの上のものを片付けだした。
「寝るか?歯ブラシ買ってきたから…」
「ありがと」
知美が歯を磨いている後ろで辰夫も歯を磨く。
11歳も歳の離れた男。
その男を、“おかえり”と出迎え、いっしょに歯を磨いている。
辰夫にとって自分がただの教え子なのか、友達なのか、兄妹なのか、親子なのか、恋人なのか、知美にはわからない。
ただ、肌を触れ合わせることの出来る距離にいるのは間違いなかった。
「わたし、どこで寝るの?」
「ベッド」
「先生は?」
「ベッド」
「いっしょに寝るの?」
「いやか?」
「ううん。いいけど…」
「よくないだろ。ばか。嫌がれ」
「だって、ベッド一個しかないじゃない」
「当たり前だろ、せまいんだから、何個もベッドが置けるかよ」
「寒いから、いっしょに寝よう」
知美は、辰夫の手を引いてベッドに連れて行った。
辰夫のベッドは、ひとりにしては広かった。
二人並んで寝ても余裕がある。
「ねぇ、先生」
「ん?」
「ホントに今、彼女いないの?」
「ああ、なんで?」
「ううん。わたしがいたら迷惑かなって」
「そうだな。家出娘は、彼女がいなくても迷惑だな」
「ひどーい」
知美は辰夫の胸に頭を乗せた。
「ねぇ、先生」
「ん?」
「お願いがあるんだけど…」
「なんだ?」
「わたし、ファーストキスだったの」
「何が?」
「先生がここを出て行くとき、したでしょ」
「ああ…」
「もう一回、ちゃんとして」
「やり直しか?」
「だって、ファーストキスなのよ。あんなのじゃなくて…」
(あっ…)
知美の言葉が終わらないうちに、辰夫にぎゅっと抱きしめられた。
知美は目を閉じた。
くちびるが触れる。
(熱い)
“チュッ”ではないキスだったが…。
「おやすみのキスだ」
「もう…意地悪」
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