スポンサーサイト
新しい記事を書く事で広告が消せます。
美菜子の恋1-2
1時少し前に、テーブルの客が帰っていき、それにつられたようにカウンターの客も帰った。
遅くやってきた俺が一人残った。
「もう終わり?」
少し早いような気がして、俺がきいた。
「ううん。2時までだけど…」
しかし、誰もいなくなったので、俺も立とうとしたが、足がふらついた。
(久々に酒を飲むと、こんなふうになるのか?)
意識は、普通のつもりだったが、立とうとして、それが容易でないことに気がついた。
「だいじょうぶ?」
美菜子が寄ってきた。
「だいじょうぶ…なはずだが…」
俺は、めまいがしそうな予感がして、一度座った。
「酔ったの?」
「どうも、そうらしい」
「立てる?」
「ああ、もうだいじょうぶだ」
そうは言ったが、平衡感覚にぶれがあった。
ふわっとした奇妙な感覚だ。
あごにいいパンチをもらったときの感覚に似ている。
思った通りよろめいた。
美菜子が脇を支えてくれた。
「ありがと」
「少し、そこで横になってれば…?」
美菜子は、客のいなくなったテーブルのソファに俺を向かせた。
「いいのか?」
「いいわよ。たぶん、今日はもう、お客は来ないから…」
俺は、ソファに深々と腰を降ろした。
ふと一枚の絵が目に留まった。
「これ…ママかい?」
白い肌に荒縄が食い込んだ絵だ。
吊られていた。
「そうよ」
「こういう好みなの?」
「さぁ…どうだか…」
その横に美菜子も座った。
(変な人だ…何を考えているのやら…)
美菜子の肩に手を掛けると
「だめ、後でね…」
美菜子は、すっと立ってカウンターの中に戻った。
「待っててね。片付けて…閉めちゃうから…」
「何を待つんだ?」
「送ってあげるわ…車なの、わたし」
「車って?…ママ、自分で運転して帰るのか?」
「ええ」
「飲んでないのか?」
「わたし、お酒、飲めないの」
「ふっ」
俺はふきだした。
「…飲めないのに…スナックのママ…なのか?」
「おかしい?」
「変わった人だ…」
「また、言った」
「すまない…だけど、うちを知ってるのか?」
「知ってるわ。工藤写真館でしょ…」
「身元もばれてたってことか」
「そういうこと」
「ママの家は、そっちでいいのか?」
「ええ…近くなの」
「そうか…じゃぁ、お願いするよ」
美菜子は黒い軽自動車を店の裏につけた。
「毎日、車なのか?」
運転する美菜子の横で俺が訊いた。
「ええ」
「客にすすめられたりしないのか?」
「お酒?」
「ああ」
「わたしが飲めないの、みんな知ってるから…」
「なるほど」
「その先のマンション。私、そこに住んでるの」
「そうなの、じゃぁ、そこでいいよ。ここならうちまで数分だ」
美菜子はマンションの駐車場に車を入れた。
「来る?」
「いいのか?」
「ええ…よかったら」
断る理由はない。
変な奴がいて…ということもないだろう。
酔ったとはいえ、日本ライト級2位のボクサーだ。
彼女もそれは知っている。
車を降りる頃には、俺はもう普通に歩けるようになっていた。
まだ、ふわふわした感触は抜けないが、ふわふわした感触に自分を慣らした。
美菜子の部屋は、やたら広いワンルームだった。
もともとは仕切られていたのを改装したようで、何か所か柱が残っている。
俺は上着を脱いで、小さなベッドのようなソファに横になった。
その横で美菜子が服を脱ぐ。
下から見上げる格好になったが、それでも小柄だ。
俺は、見るともなしに着替える美菜子を見ていた。
美菜子は、見られていることなどお構いなしに、ブラもはずし、パンティーだけになって、上からだぶだぶのシャツを着た。
「ねぇ、まだ、飲む?って言っても、ビールくらいしかないけど」
美菜子は、冷蔵庫を覗きながら言った。
小柄なわりには肉付きのいい尻がつんと突き出された。
「いや、もうやめとこう。恥ずかしい話だが、酔ったのは初めてだ。それより、シャワー浴びていいか?」
「どうぞ」
俺は、バスルームに向った。