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沙希の悪戯2-2
2.怒らない?
「バッグから何か取り出すんだと思ったでしょう?」
沙希は、にこっと笑った。
優作は、確かにそう思った。
「ああ」
「何かくれると思うから、素直に目をつむってくれるってわけだ」
「そうだ」
もうワンセット、沙希は同じケーキを箱に詰め始めた。
「突然、キスして怒られないですか?」
「俺は怒らない」
「“俺”じゃ、だめです。まだ16歳のちょっとオタクっぽい、女の子と付き合ったことなんか一度もないような男の子なんですけど…」
「でも、男なんだろ?」
「男です」
「キスされて怒る男はいない」
「相手がどんな女の子でも?」
「そうだな…めっちゃおばぁちゃんだったら、気色悪い」
48歳、独身、英語の教師の顔が浮かんだ。
おばぁちゃんと呼ぶには失礼だが…。
「だいしょうぶ?」
「だいじょぶだ」
「これもわたしですか?」
沙希は、これもカップル割引にするのかたずねた。
「いや、それはいいよ」
「割り引き、ないですよ」
「いいよ、そのかわり、さっきの分で抽選していいか?」
「えっ、やるんですか?」
「当たったら、山分け」
「それって、口封じ?」
「さっきお前もしたろ」
「さっき?口封じ…確かに…」
抽選と言っても簡単な三角くじ。
優作はこういうささいなくじでは、めっぽう運が強い。
「よし、当たった」
「ウソ、ホントだ」
沙希は、レジの下の小さな金庫から封筒に入った3千円を優作に渡した。
「よし、山分けだ」
「いいです、ホントに…」
沙希は、受け取らない。
「その代わりってわけじゃないんですけど…」
「何?」
「あの、中島さん、いつもカメラ持ってるじゃないですか、それからパソコンも…」
仕事がら、パソコンとカメラは常に持ち歩いている。
「ああ、仕事で必要だからね」
「画像やビデオの編集とかって出来ます?」
「まぁ、そこそこなら…」
「その子、そういうの趣味なんです」
「そうなんだ」
「なんか簡単に扱えるソフトとかってないですか?」
「簡単ってわけにはいかないな」
「ですよね」
「教えてやろうか?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、パソコン持ってる?」
「いえ、これから買うんですけど、どんなのがいいのか?」
「選んでやろうか?」
「いいんですか?」
「いいよ。いつ?」
「この土曜か日曜、だめですか?」
「土曜の昼からならOK」
「やった。ありがとうございます」
「あっ、お疲れ様です」
店長の久保が入ってきた。
相変わらず、覇気のない男だ。
挨拶をしただけで、優作の前を素通りして店の奥に入って行った。
「じゃ、土曜日に電話して、ちょっと店長と話があるから」
優作は、久保の後を追って店の奥に向った。
(さて、どう落とすかな…)
“スカッとする潰し方”
犬がいなくなれば、犬小屋はいらない。
えさも散歩も必要ない。
簡単な話だ。
愛するペットを失う悲しみってやつも小気味いい。
ただ、無理矢理どこかに連れて行くのはスマートなやり方ではないし、下手すれば犯罪だ。
ペットのほうが自分から出て行くってのがベスト。
(とりあえずは…脅してみるか?)
優作は、少しあごを引いて、ノックもせずにドアを開けた。
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