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沙希の悪戯2-1
第2章
1.目をつむって
優作は、1週間かけて4人のパートとアルバイト全員から話を聞いた。
それぞれの話をまとめると、予想通りの結論。
(この店は、静流の虚栄心と性欲を満足させるために存在しているということだ)
ばかばかしい限り。
優作には、この店を活かす気などさらさら涌いて来ない。
といって、潰してしまっては自分の落ち度を責められる。
それにただ潰すだけでは割が合わない。
全くの時間の浪費。
それなりの代償が必要だ。
(スカッとする潰し方か…)
「お先に失礼します」
店の前で突然声をかけられた。
美穂が帰るところだ。
「ああ、お疲れ様」
優作は反射的に優しい声で挨拶する。
“にこやかなヤツほど腹黒い”
商社マンの基本だ。
優作は、優しい笑みを浮かべて店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
沙希の声がした。
「ごめん、俺だ」
「お疲れ様です」
「今日は沙希ちゃんか」
「木曜日ですから…」
火曜と木曜は沙希だ。
「店長は?」
「本社、らしいです」
「そう」
(やっぱ、あいつらにはそれなりの報いが必要だな…)
「カップル割引どう?」
「ぼちぼちらしいです。でも、美穂ちゃんが言ってたけど、カップルって言ってもほとんど夫婦だって…」
「いいんだよ、中年の夫婦でも…。お父さんが着いてきたら、お父さんの分も要るだろ」
「そっか。一個余分に売れますね」
「そういうこと」
「で、沙希ちゃんは、彼氏つれて来た?」
「彼氏いないですから」
「嘘着け。いるだろ?」
「えっ、ええ、まぁ。でも、わたしがこっそり思ってるだけだし…」
「あのさ、頼みがあるんだけど」
優作は、自分で振った話題をあっさり打ち切った。
「何ですか?」
「これといったいいプランが思いつかなくて、“カップル割引”、もう少し、利用者を増やしたいんだ」
沙希には、優作の言うことの意味がよく理解できない。
「要するに、次の手が思いつくまで、これをもう少しヒットさせてつなぎたいわけだ。そうしないとクビになる」
「えっ、マジですか?」
「すぐってわけじゃないけど、だんだん風あたりが強くなってくるわけよ」
「そうなんだ、大変ですね」
「そう、大変なんだよ。で、知り合いにケーキを頼まれたんだけど、沙希ちゃん、買ってくれないかな?」
「わたしがですか?」
「カップル割引ってことで」
「まさか、自腹で売上アップですか?」
「それが残念なことに、頼まれ物だから、自分の腹には入らないんだよね」
「自腹ってそういう意味なんですか?」
「違うよ」
沙希は、カードに名前を書き始めた。
男の欄に記入した名前は、片山研二。
「それが彼?」
「やだ。見ちゃだめですよ」
「わかった、見ない」
既に見ているが…。
「ケーキ、何にします?」
「沙希ちゃんが決めて」
「いくつくらい?」
「6個」
「高くてもいいですか?」
「いいよ」
沙希が、楽しそうにケーキを選んで箱に入れる。
優作は、それをずっと眺めていた。
「はい、どうぞ」
沙希が袋を差し出した。
「ありがと、ちょっとこっち来て」
優作は袋を受け取ると、入り口が見えない奥に沙希を誘った。
「ありがと、ちょっとまぁ、お礼ってほどのもんでもないけど…。手を出してくれる?」
わけがわからないが、言われたまま沙希は手を出した。
「目をつむって」
目を閉じた。
「手に何かを乗せてくれると思ってるだろ?」
優作の意外な言葉に沙希は目を開けた。
「ごめん、これね、俺が初めてキスしたときに使った手」
「はぁ?」
「バレンタインにチョコもらって、その何日か後が彼女の誕生日で…、その彼女の誕生日の前の日だったかな…“ケーキ頼まれたんだけど、俺よくわからないから選んで”って彼女を誘って…、彼女に選んでもらって、その帰りに…。最初は、ただケーキをわたして一日早いけど誕生日おめでとう、って言うつもりだったんだけど、彼女が目をつむって立ってると、キスしてもいいかな?…なんて思って…」
「しちゃったんですか?」
優作がうなずく。
「彼女は?」
「ずっと目を閉じたままで、目を開けないから、そのまま手にケーキを乗せた」
「そしたら?」
「やっと目を開けて、“ありがと”って…」
「マジですか?」
「ああ」
「ふーん、彼女、気づいてたのかな?期待してたとか?」
「さぁ。これ沙希にプレゼント」
優作は、沙希の手にケーキの袋を置いた。
「えっ、頼まれたんじゃないんですか?」
「悪い、同じものをもうワンセット買って」
「いいですよ。申し訳ないもの。このあいだも買ってもらったし…」
「そう言わずに受け取ってよ」
「すいません。じゃぁ、わたしもプレゼント」
沙希は、カウンターの下に押し込んだバッグを持ってきた。
「手を出して、目を閉じてください」
優作は、言われた通りに手を出して目を閉じた。
沙希の手が優作の肩にかかる。
軽く前に出した優作の手に沙希の乳房が押し付けられる。
優作の唇に沙希の唇が重なった。
(マジかよ…)
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