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樹奈の憂鬱1-2
人妻☆じゅなの秘密日記
2.噂
邦彦が、ふと人の気配を感じて顔を上げると増井美香が、邦彦のデスクから1mくらい離れて立っていた。
「どうした?」
「すいません、今、いいですか?」
「ああ、いいけど・・・・ずっとそこにいたのか?」
「はっ・・・はい。・・・いえ・・・少しです」
「なんで・・・、声をかければいいのに・・・」
「すいません。でも、なんか・・・主任、怖くて・・・」
(怖い?・・・・)
美香は、新卒で入社4ヶ月めの新人だが、邦彦は、怖いといわれたのは初めてだった。
押しの弱い性格で、部下を叱ったこともない。
「怖い?・・・・俺が?」
「ああぁ、すいません。違うんです」
美香が、慌てて言い直す。
「すごい真剣な顔で・・・なんか、声をかけにくくて・・・すいません」
「そうだったの?・・・・気にしなくていいのに。別に怒ったりしないから・・・」
「は、はい」
「で、何?」
「はい。データ集計終わって、分析結果を出したんですけど、見ていただけないですか?」
美香は、手にフロッピーディスクを持っている。
「それで、持ってきたの?」
今時、フロッピーディスクでデータを持ってくる子も珍しい。
美香がフロッピーディスクを差し出した。
「わかった、見ておくよ」
邦彦のパソコンにはフロッピーディスクドライブがない。
「増井」
邦彦は、ふと思いついて、自分の席に戻ろうとした増井を呼び止めた。
「はい」
「ちょっと、ここに座って」
邦彦は空いている隣の席に美香を座らせた。
その席には、過去の遺物のような古いパソコンがどんと乗っかっている。
邦彦は、それを起動させ、美香の持ってきたフロッピーディスクを差し込んだ。
「増井のアドレスを入力して・・・」
美香は、言われたとおりにする。
「あのさ、データは、社内のメールで俺のアドレスに送ってくれればいいから・・・」
そう言って、美香にデータを送信させた。
「すいません。でも、なんか、失礼なような気がして・・・」
(失礼?・・・・・)
確かに、データの確認を上司にお願いするのに、メールで送りつけるのは失礼かもしれなかった。
「構わないよ。俺なら・・・・」
「すいません・・・失礼します」
美香は頭を下げて、自分のデスクに戻った。
(怖い・・・・のか?俺が・・・・・)
美香に言われて、初めて邦彦は、そういう思いでオフィスに眼をやった。
邦彦の部署では、主に広告宣伝に関する効果測定をやっている。
邦彦は、11名の部下を持つ主任だが、直の上司は企画部の部長で、間の管理者がいない。
彼は、企画会議に出席し、プレゼンの出来る最年少社員だった。
邦彦がこなす仕事の量は、はんぱではない。
分、秒刻みで、資料を整理し、分析結果を出し、企画書を書き上げていく。
(そう言えば・・・・・)
この部屋は、女性が多いせいか、けっこうにぎやかなのだが、邦彦は、仕事中に、今までそうしたノイズが気になったことがない。
自分では、集中しているので、雑音が気にならないのだと思っていた。
実際、あることに集中していて、近くで呼びかけられても聞こえなかったことが今までに何度かあったからだが、どうやらそれは、思い違いだったかもしれない。
静かなのだ。
(俺の邪魔をしないように・・・・誰もしゃべってなかったのか・・・・)
美香の言うように怖がられているのかもしれないと感じた。
部下たちは、皆、邦彦の様子を見ながら、神経をぴりぴりさせていたのかもしれない。
「朝日通信に行ってくる」
邦彦は、そう告げて席を立った。
邦彦が廊下に出てドアを閉めると・・・・思ったとおり、数人の声が聞こえた。
“よかったぁ、いなくなって・・・”
“ほんと、息が詰まるわ”
おそらくは、そういう会話に違いない。
いやな気分だ。
邦彦は、同じ建物にある子会社の朝日通信に向井幸三を訪ねた。
彼女は、新しく朝日通信に入ってきたインターネット関連の広告ディレクターだが、専務か誰かのコネで入ってきたという噂で、仕事のほうは可もなく不可もなくというところだ。
2ヶ月前、邦彦は、向井と仕事をした。
そのとき、邦彦は、ふとした会話で、向井がここに来る前に、邦彦の妻、樹奈のいた会社にいたことを知った。
「ああ、うちの奥さんと同じ会社ですね」
「そうなんですか?奥さん、なんて人?」
「樹奈・・・、桜井樹奈」
「桜井・・・・・・」
向井は、あきらかに戸惑った表情を浮かべた。
「知ってる?」
「えっ・・・ああ、まぁ・・・挨拶程度だけど・・・・」
その時は、これだけの会話だった。
“水沢主任の奥さんが、元の会社の上司と不倫している”
そういう噂が流れ始めたのは、それからすぐのことだった。
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…..ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ♪
また続き読みに来ますねd(^^*)