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弥生の旅立6-5
「できたわよ。見てみる?」
弥生は、立ち上がって鏡の前に立った。
(きれい…)
弥生は、それが自分の身体であるにもかかわらず、見とれてしまった。
右の乳房に赤いバラ
左の乳房に青いバラ
その間で紫アゲハが羽根を広げている。
ただ、その下でおどろおどろしい大蛇が、舌を出していた。
「後ろも見る?」
真希がキャスターのついた姿見を押してきた。
大蛇は、弥生の身体に巻きついていた。
ボディペインティング。
かれこれ5時間を越える真希の大作だ。
「さっ、急がなきゃ。時間がないわ」
会員制のレストルームの披露パーティー。
そのレストルームの一つを控え室に借りての準備だった。
弥生は、手早くメークを済ませ、真希に渡されたドレスを手にした。
胸元の大きく空いたイブニングドレス。
きゅっと締め付けられたウェスト。
そこからファスナーを持ち上げる。
お腹を締め付けて強調された乳房は、ほんのわずかなレースで包まれただけで乳首も隠れてはいない。
ロングドレスの前と後ろにスリットが入っている。
スリットは腰の位置から入っていて歩けば、弥生の真っ白な足の内側が太ももまであらわになる。
座れば、裾が左右に別れて下半身は丸出しになるかもしれない。
真希は、このドレスにあわせて弥生にペイントした。
ほとんど露出した乳房にバラの花。
胸の谷間の上に紫アゲハ。
歩くたびに見え隠れする蛇の胴体。
蛇は、弥生の太ももに巻きつき、お尻を上って、胸のファスナーを下ろせば、そこに頭があった。
(お腹あたりは隠れてるけど…)
お腹のあたりを除けば、何も着けてないのと変わらなかった。
真希の着替えも終わった。
弥生は、真希のタキシード姿に見入った。
「やだ、あまり見ないでよ」
真希が照れた。
男に戻ったというよりは、男装したというほうがぴったりしている。
「ねぇ、弥生」
「何?」
「わたし、あなたに謝らないといけないことがあるの」
「謝る?」
「前に、公園であなたを置き去りにしたときのこと」
ボディペインティングされて公園に連れ出されたときのことだ。
「あのときの男の子。あれね…」
「いいの」
真希の話を弥生がさえぎった。
「わたしね、今、不幸じゃないわ。だから昔のことはもういいの」
過去はすべて今につながっている。
そして今、弥生は不幸ではない。
それでいい。
弥生はそう思った。
会場は、地下のカウンターバー。
エレベーターホールでスタッフとすれ違った。
「どう、おっぱい丸出しで歩く気分は?」
真希がからかった。
「真希は男の格好で歩くのは平気なの?」
弥生は、真希の腕をとって自分の乳房にそこに押し付けた。
「わたしね。手術して、完全に女になろうと思ってたの。戸籍も変えて…」
初めて聞く低い男の声だった。
「でも、やめた」
「どうして?」
「女同士じゃ結婚できないでしょ」
(えっ?)
真希が微笑んだ。
弥生の旅立 END
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