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真希の妹2-2
2.エステシャン
明日香と話し込んで、バイトにギリギリの時間で駆け込んだ。
わたしは、週に3回、夕方の6時から夜10時までピザ屋でバイトをしている。
お金が欲しいのはもちろんだけど、なんていうか自分だけの世界というのが持ちたいと言うか…。
同じ学校の同じ学年に兄妹がいるというのは、けっこう気になるんだな。
例えば、同級生とかで彼氏ができると、当然、真希に知られるわけで…
真希が女だったらそうでもなかったんだろうけど、相手も兄が同学年にいるとなると、それだけで引いたりする。
だから、高校生になるとすぐにわたしはバイトを始めた。
ここは、真希が知らないわたしだけの空間。
わたしがバイトを始めると、真希もすぐにバイトを始めた。
真希も同じ思いをしていたのかもしれない。
結果的に家ではほとんど顔を合わさなくなってしまった。
別に真希を嫌っているわけじゃないけど、中学になって少し遠ざかっていた真希との距離が、このことでさらに遠くなってしまった。
「ただいま、戻りました」
配達に行っていた梓が帰って来た。
杉原梓
半年くらい前に入ってきた。
まだ、10代だとは思うけど、歳は知らない。
「梓、次、2軒だ。大至急」
配達は30分以内。
配達員には休む暇はない。
「了解」
梓は、いつも明るい返事を返す。
目が合うと必ず、にこっと微笑む。
わたしだけに…ではなくて、誰にもみな同じ微笑だけど…
電話だ。
わたしもようやく、注文を受けられるようになった。
電話はヘッドセット。
お客の注文をきいているわたしの横を配達用の保温バッグを持って梓がまた配達に出て行った。
平日の6時から10時というのは、手ごろに忙しい時間帯だ。
暇を持て余すこともなければ、忙しすぎて目を回すこともない。
わたしの4時間は、いつもあっという間に過ぎていく。
「お先に失礼します」
「俺もあがります。お疲れ様でした」
帰ろうとするわたしの後ろに、いつもは24時までの勤務で、わたしと同じ時間には帰らない梓がついてきた。
「あれ、梓、今日は早いのね」
あきらかに梓のほうが年上なのだが、みんなが呼び捨てにするのでわたしもつい、そう呼んでいる。
「ああ。ちょっと本業がきつくなって、早めにあがらせてもらうようにしたんだ」
「本業って?」
手ごろな忙しさの中で、話をする時間もなく、半年も経つが、わたしは彼のことをほとんど何も知らない。
「学校」
微妙な返事だ。
高校なのか大学なのか、専門学校なのかわからない。
「どこの学校なの?」
あいまいに聞き返した。
「専門学校。エステの…」
「エステ?」
「そう」
「ふーん、エステシャンの学校ってあるんだ?」
「あるよ」
「そうなんだぁ」
「何感心してんだよ」
「ううん」
わたしもエステには関心があった。
エステシャンになりたいわけではない。
ちょっと…太ったのだ。
中学時代は、別にこれといった運動をしたわけでもないのに、けっこう身長が伸びて、体重も増えたが、太りはしなかった。
ところが、高校生になって、ここ一年、身長は8ミリしか伸びていない。
だけど
体重は、6kg増えた。
慌てて食事を減らしたのだが、増加の速度が鈍っただけ。
「エステかぁ…」
思わず口に出てしまった。
「お前も興味あるのか?」
「うん。まぁ…」
「パンフとかもらってきてやろうか?」
「ううん。そっちじゃなくて…。ちょっと太ったんだ」
「ああ、そっちね」
「なによ」
「別に太ってないだろ」
「見かけはね」
「そうかぁ。あんまり痩せてるのって、俺はいやだけどなぁ」
「学校って、教えるだけ?やってないの?」
「一応、店もあるよ。生徒が実習したりしてる」
「そういうのって安くならない?」
「本気で言ってる?」
「うん、けっこうマジ」
「そうか。なら、紹介してやろうか?生徒の中で内緒でバイトしてるやついるから…」
「大丈夫なの?」
「最初の1回はタダ。やってみてお前がいいなって思ったら、後は2時間、3千円」
そのくらいのお金ならバイト代で払える。
「いつでもいいの?」
「いつがいいんだ?」
「バイトのない日」
「明日でもいいのか?」
「明日?いいの?」
「聞いてやるよ」
梓が携帯を取り出して立ち止まった。
「明日の6時から8時ってのはどうだ?」
「いいけど…」
「じゃぁ、そういうことで…」
「えっ、決めちゃったの?」
「ああ。あっ、友達っての…女だから、一応…。神崎レナ」
「そう」
女性だと聞いて、ほっとした。
「場所は、どこなの」
「すぐ近くだけど。寄っていく?」
「えっ、ええ」
なんか急な話だけど、自分から言い出したことなので、嫌ともいえなかった。
しかし、本当に文がうまいですね・・・(羨