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晴美の就活2-4
4.透撮
「井上さん」
午後の講義が終わったあと、廊下で呼び止められて晴美は振り返った。
(今西君?)
晴美は慎吾とは親しくはない。
話をしたこともない。
別に何かがあって嫌っているわけではないが、なぜか今まで一度も話す機会がなかった。
「ちょっと話…いいかな?」
「いいけど…、何?」
「健作から聞いたんだけど、英語教えてるんだって?」
「ええ。ふーん、じゃぁ、数学教えてるのはあなたなの?」
晴美は、健作が数学も家庭教師がついていると言っていたのを思い出した。
「ああ」
「で?」
晴美は、先を促した。
「お前、いったい何やってんだ?」
「何?どういうこと?」
慎吾が、携帯を晴美の目の前に差し出した。
(あっ、…これは)
表示されていたのは、晴美の写真だ。
この前、健作が撮った水着の写真のようだったが…。
「ちょっと待って。何、これ」
晴美は、驚いて向きを変え慎吾に並ぶように横に立って、携帯の画面を覗きこんだ。
水着のはずだったが、乳房も乳首も透けている。
「どういうこと?どうして…?」
晴美は混乱して支離滅裂だ。
「どういうことって、俺が聞きたいよ。お前、生徒と何やってんだよ」
「何って…」
答えようがない。
「単語テストで合格したから写真を撮らせたんだって?健作がそう言ってたけど」
「そうだけど、こんな写真、知らないわ。健作が何かしたのよ」
「合成じゃないよ。赤外線だ」
「赤外線?」
「赤外線をあてて撮影するんだよ。ものによっちゃ完全に透ける」
(そうか。それでカメラを取り替えて…)
「それより、どうしてあなたが持ってるの?それ消してよ。早く…」
相変わらず、画像は表示されたままで、決して鮮明な画像ではなかったが、自分の乳首をずっと見られているのは恥ずかしい。
「たまたま早く行ったら、あいつ、デジカメの画像を編集してる最中でな」
「で、あなたもコピーしたの?」
「ああ。全部」
「消して。全部消して」
晴美の声が大きくなった。
「大声、出すなよ。何事かって思われるだろ」
「お願い。消して…」
「お前さぁ。付属高校の教員、狙ってんだろ?健作は、在籍しているそこの生徒だぞ。わかってんのか?」
「だから、これは、健作が…」
「そういう問題じゃないだろ。二人きりで写真の撮影に応じたんだろ。赤外線はともかく、そうじゃなくても水着だろ、これ」
晴美は黙り込んだ。
慎吾の言うことが正論だ。
「それに、お前、着替えてるところもビデオに撮らしただろ」
(ビデオ?何、それ)
「何のこと?そんなことしないわ」
「お前が、着替えてるところを撮ったビデオもあったぞ」
「そんな、知らないわ、そんなの」
「撮られてるのを知らなかったのか?」
「知らないわ」
「じゃぁ、健作がこっそり撮ったのか?」
「だってわたし、背中を向けてたし…」
「一つ部屋で、健作に背中を向けただけで裸になって着替えたのか?」
「えっ…でも、そうだけど…、裸になんかなってないわ」
「なってたよ。水着からメイド服に着替えるとき、お尻、丸出しだったぞ」
「うそ。あのとき、健作はいなかったわ」
「そんなこと、俺に言ったって…。ただ、確かに写ってた」
「それも、コピーしたの?」
慎吾がうなずいた。
自分の裸を、目の前の話もしたことのない男に見られた。
「それって今、見られる?…見せて」
「家にある。俺のアパートに来れば見られるよけど…。今日、行くんだろ?直接、健作に見せてもらえば?」
「ううん。行く。あなたのアパートに行くから、そこで見せて」
健作はもちろん、晴美は慎吾が持っている自分の画像や映像も消去させたかった。
そんなものが公になったら、大変だ。
スキャンダルは禁物だと理事長に言われたばかりだ。
慎吾のアパートは、大学から歩いていける距離だった。
ロフトつきの8畳くらいのワンルーム。
男の一人暮らしとは思えないほどきれいに片付いていた。
「適当に座って」
慎吾は、そう言うと、パソコンを立ち上げた。
座っていては、パソコンの画像が見えない。
晴美は、慎吾の後ろに立って、ディスプレイを覗き込んだ。
「まず写真からな」
健作が撮った晴美の写真が、スライド形式で映し出された。
迷彩の野戦服に小銃。
自分が思った以上に体のラインがはっきりと出ていた。
(やだ。乳首の位置がわかっちゃう)
かなりの枚数が映し出された。
(すごい、こんなに撮ってたの?)
次はいよいよ水着の写真だ。
(あれっ…普通じゃない)
水着の上にエプロンをつけた写真。
どこも透けてはいない。
ただ、水着はエプロンにすべて隠れてしまって、裸にエプロンだけとなんら変わらない。
どこも見えているわけではなかったが、晴美は恥ずかしかった。
(あっ、だめ)
いきなりだった。
はっきりと乳房も乳首も写っている写真。
次も次も…
携帯で見るよりも画像が大きくなってはるかにわかりやすい。
乳房も乳首もお尻も前のヘアまで、完全に透けている。
いや、透けているというより裸に等しかった。
慎吾は、写真の本人の前で平然と写真を送っている。
「もういいわ。やめて」
晴美は、これ以上、自分の裸を見られることに耐えられなくなった。
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