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由香里の日常2-5
5.知られてた
バスタオルを身体に巻いて出てきた由香里を、祐二は裸のまま、ベッドでぼんやりと眺めていた。
由香里は、服を着ようかどうか迷った。
セックスが終わって、服を着て帰る…それじゃ、商売みたいだ。
それにヌード撮影中だったのだから、何も言われないのに服を着ちゃまずい。
でも、カメラマンはもういないし…ベッドにいる祐二の横に並んで横になるのも…恋人みたいだし…。
「あのぉ…工藤さんは?」
由香里は、祐二に訊いてみた。
「さぁ…」
祐二は、ようやく上半身を起した。
「後…どうすれば…」
祐二はようやく、由香里の質問の意味が分かった。
「ああ、そういうことか…工藤さんは、もうすぐ帰ってくるよ」
(もう、すぐって?…まさか、打ち合わせ済み?)
「服、着ていいですか?」
「それは、待って」
祐二は、由香里の前に立つと、由香里が身体に巻いたバスタオルを取った。
(恥かしい…)
カメラの前では、どんな格好だってできるが…カメラマンではない普通の男性、祐二の前では…。
由香里は、両腕で胸を隠した。
祐二は、由香里の背中に回り、後ろから由香里を抱いた。
「もう…だめ…です」
由香里は、それだけ言うので精一杯だった。
「だいじょうぶ?」
祐二が、耳元で、囁いた。
由香里は、それには答えず、逆に祐二に訊いた。
「あのぉ…訊いていいですか?」
「何?」
「わたしを……、あのぉ…、これって、計画的だったんですか?」
「今のこと?」
由香里はうなずいた。
「どうだろう?…よくわからない。正直に全部言うから、あなたが判断してくれるかな」
祐二は、由香里を背中から抱きかかえ、自分といっしょに由香里をソファに座らせた。
「俺が、ここに来たのは、ただ、写真を受け取りに来ただけで、朝、電話をして、ここにやって来た。帰ろうとしたら、撮影があるから見ていくかと工藤さんに声をかけられたんだ」
祐二は、思いだすように、間をおきながら話し出した。
「撮影って…裸の女の子なんか見たら、俺、我慢できずに襲っちゃいますよって…もちろん、冗談だ」
また、間をおいた。
「そしたら、そうなるかもしれんって…マジな顔で…」
(やっぱり…その気だったんだ)
「ただし、荒っぽいのはだめだ。彼女がいやがったら、やめろって…」
祐二は、由香里の顔を後ろから覗き込む。
「それから、顔色が悪くなったり、呼吸が苦しそうになったら、中断して、回復するのを待てって…」
(どういうこと?)
由香里は、祐二がゆっくりだったこと、何度か中断して自分の顔を覗き込んでいたこと、“だいじょうぶ?”って訊いたことを思い返していた。
「病気かなんか?…ごめん、知らないから、そう訊いたんだ。そしたら…病気じゃないが、初めてだから…って」
(初めて…?工藤さん、どうして、それを…)
「あのぉ…中川…さん、わたしを見て…バージンだって思いました?」
由香里は、一語一語区切るようにして祐二に訊いた。
「どうだろ…そう言われてたからね。バージンなのに、こんな大胆な格好ができるんだ、へぇーって感心してたよ…。でも、なんでそんなことを?」
「いえ、バージンの子って、外から見て分かるのかなぁって」
「どういうこと?」
「わたし、工藤さんにも誰にもバージンだなんて言ったことないんです」
「ふーん、それなのに、工藤さんは知ってたと…だから、なんか違いがあるのかって…」
祐二はしばらく考え込んだが…
「俺には、わからないけど…もしかしたら、工藤さんくらいになれば分かるのかもね。プロのカメラマンだし、観察力もキャリアも俺なんかじゃ比べもんにならないからね」
「で、わたしをやっちゃおうって、ずっと見てたんですか?」
しばらくして、由香里は、はっきりとした口調で祐二に訊いた。
「いや、そうは言われても、できないだろ、普通。そんなことしたら、工藤さん、まずいんじゃないの。よくは知らないけど…。ただ、工藤さんが撮影するところを見てみたくて…。でも、実際、マジで興奮して…」
「でも、工藤さん、すぐにいなくなったわ。打ち合わせどおりなんじゃないんですか?」
祐二が嘘をついているようには、思えなかったが、あえて、由香里は訊いてみた。
「あれは…俺が、工藤さんを見たんだ。本当にしていいのかっていう顔をしたら…」
そこで祐二は黙った。
由香里が振り返って祐二の顔を見る。
目があった。
「工藤さん、俺にね、無理はするな。息が荒くなって、顔色が悪くなったらやめろ、いいなって繰り返して、出て行った」
息が荒くなることは、けっこうあるが、別にそれは、そんな指摘をされるほどのことでもないと由香里は思った。
ただ、過去に何回か、息が苦しくて、ものすごくいやーな気分になったことはある。
今日も、なりそうだった。
(工藤さん…わたしがときどき、そうなるの、わかってたんだ…)
「さっき、そうなりかけただろ」
「えっ…」
工藤だけじゃない。
自分とほとんど歳の変わらないように見える祐二にまで指摘された。
由香里は、うなずいた。
「わかるの?」
「表情が変わった。よーっく見ろって念を押されてたからね。気が気じゃなかったよ」
「で、途中で止まったり、だいじょうぶかって訊いたりしたんですか?」
「まぁ…そういうこと」
「俺の知ってる人に、同じような人がいた。男だけどね…、そいつ、極度に緊張すると、はぁはぁって、みるみる顔色が真っ青になって、倒れるんだ」
「緊張?」
「ストレスが原因だろうってことらしい」
「ストレス…わたしが?」
由香里は、黙ってしばらく考え込んだ。
由香里は、お尻を半分、祐二の膝の上に乗せて、祐二にしなだれかかっていた。
由香里を、抱きかかえている祐二の腕に少し、力が加わった。
「バージンだって…知られたくなかったんじゃないの?」
祐二はぽつんとそう言うと、さらに力を入れて、由香里を抱きしめた。