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美菜子の追憶1-5
5.あんたなんかに
「いくらでやらせてるんだ?」
「どうでもいいでしょ。…放して」
わたしはうでをふりほどこうとしたが、省吾は離さない。
「いくらなんだ?言えよ」
「2万円よ。…言ったわ。もういいでしょ。放して」
「2万円か…」
省吾が呟いた。
嘘だ。
実際には、月に3万~5万だったのだが、安いとばかにされそうで、倍の金額を言ったのだ。
「そうよ。2万よ、わたしとただで出来るなんて思わないでね」
売り言葉だった。
「2万だしたら、誰とでも寝るのか?」
「ええ、そうよ。お金くれるなら、誰とでも寝るわ。商売だからね」
もう、引っ込みもつかない。
「俺とでもか?」
(えっ…何?)
省吾が、ポケットから財布を取り出した。
(まさか…)
省吾は、財布からお金を出して、わたしに突き出した。
1万円札と千円札が10枚。
「金出せばいいんだろ」
確かに、そうは言ったが…。
お金が欲しいわけじゃない。
ばかにするなとも思った。
(わたしは…遊ぶ金欲しさに援交してるやつらとは違うんだ)
こみあげてくるものを、ぐっと飲み込んで、わたしは、省吾の差し出したお金を受け取った。
「そうよ。お金もらえれば…」
それ以上は言葉に出来ない。
省吾も黙ってわたしを見ている。
わたしは、少し、落ち着いた。
なんとか話せそうだ。
「どうするの?ホテルに行く?」
長い言葉は話せない。
息を吐くと、涙が出そうになる。
「ホテル代は…」
省吾が口ごもった。
「こんなとこじゃいやよ」
省吾の表情が曇った。
困ったときに省吾は、悲しそうな顔をする。
わたしの胸をキューンとさせる顔だ。
“お金なんかいらない”
そう言いたかった。
でも、そんなことを言ったら…。
省吾が自分とつきあってくれたりするはずはない。
「わかった。じゃぁ、ホテル代はわたしが出す」
わたしは、省吾の腕を取った。
「行こ…」
わたしは、今来た道を引き返した。
「お前、本当に誰とでも寝る奴なんだな」
省吾は、ぽつんと、独り言のように言う。
ひどいことを平気で言う。
「そうよ…だから何」
(あんたなんかに…)
わたしは、唇をかんだ。
わたしは、さっきとは別のホテルを選んだ。
おじさんは、わたしが高校生なのでなるべく同じホテルを連続しては使わないようにしている。
だから、わたしは、このあたりのほとんど全てのホテルを知っている。
省吾は、ラブホは初めてなのかもしれない。
黙ってわたしの後ろをついてきた。
部屋に入ると、省吾が後ろからわたしを抱きしめた。
「いやよ…放して…」
抱かれたかったが…恋人じゃない。
「シャワー浴びたいの…いい?」
少し前に他の男に抱かれている。
わたしは、とにかくもう一度シャワーを浴びたかった。
「いっしょに入っていいか?」
「少ししてから…呼ぶから…」
わたしが服を脱ぐところを省吾はずっと見ていた。
男に見られても恥ずかしくはない。
バスルームに入って、わたしは…泣いた。
シャワーを頭からかけた。
しばらく泣いて、
それから、体中をごしごしと念入りに洗った。
(…ばーか、普通の恋なんかできるわけないんだ)
ひとつ、大きく深呼吸した。
「いいわよ」
わたしが、ドアを開けて呼ぶと、省吾は、すぐに入ってきた。
「うへぇ、広いんだ」
このホテルは、特にバスルームが広い。
わたしは、省吾を椅子に座らせ、背中を洗い始める。
普段はそんなことはしない。
おじさんとは、いっしょにお風呂に入ることもない。
わたしは、ただ…プロっぽくしたかった。
(寝る場所探して、3000円、5000円で男についていくやつらとは違うんだ)
だからと言って、体の洗い方を知っているわけではない。
スポンジにボディソープをたっぷりつけて、背中をごしごしこするだけだ。
やせてると思ってた省吾の腕も背中も意外にしっかりと筋肉がついていた。
「たくましいのね」
つい、思ったことが口に出た。
「そうかぁ?」
何気ない会話。
また、涙が出そうだ。
「こっち向いて…前も洗うから…」
今度は、できるだけぶっきらぼうに言った。
わたしのほうを向いた省吾は股間を手で隠す。
わたしは、省吾の前でタイルにぴったりとお尻をつけて座った。
今度はスポンジではなく、手のひらで洗う。
胸板もけっこう厚い。
胸から脇、お腹へと手を下ろし、股間を隠している省吾の腕をつかむと、わたしは、省吾の腕を自分の乳房に押し当てた。
省吾の指がぎこちなく動く。
わたしは、大きくなっている省吾のものを握った。
わたしの手の中で、省吾のものはときどき、ぴくんと動く。
(固い…)
わたしは固さに驚いた。
おじさん以外にも何人かと関係したけど、みんな中年だった。
(同級生なんだ)
つくづくそう思った。