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美菜子の追憶1-1
第1編 夏海
愛してると言う。
愛って何?
好きだと言う。
好きってどういうこと?
わかりもしないのにそう言ってみる。
他の女を抱いてもいい。
ただわたしには黙ってて。
他の男に抱かせてもいい。
ただそこにいっしょにいないで。
いいわけないのにそう言ってみる。
わたしは、工藤美菜子
お酒も飲めないのにクラブのママだ。
ここには、いろんな子が来る。
1. 夏海
「知ってる人だったの?」
「うん。ごめんなさい」
夏海がお客のテーブルに行くことを嫌がった。
「いいわ。別に指名じゃなかったし、出会いたくない人ってのもいるわよ」
夏海は、わたしの店に来てもうすぐ1年になる。
その前もどこかの店にでていたようで、どんな客もそつなくこなす。
指名の本数では必ず上位にいる子だ。
よっぽど会いたくない客だったのだろう。
「わたし…援交してたんだ」
夏海が、ポツリと話し出した。
「うち、両親が離婚して、母子家庭で、…けっこう貧しくて、…だからってわけでもないけど…」
わたしは、黙って聞いた。
「高2の頃、携帯の出会い系で知り合って…、40歳くらいだったかな。なんか気に入られちゃって、その後も何回かやって…、いつのまにかそのおじさんと月に2回くらいのペースで会うようになって…」
夏海は、わたしを見て、両肩を少し持ち上げて見せた。
「そのおじさんに朝、駅のホームで会ったの。びっくり」
「偶然?」
「ってか、いつも同じ電車に乗ってたみたいなんだけど、他人だったし…、改札口も違ってたから気づかないでしょ。その日はわたしが乗る場所でなんかけんかっていうか言い争ってて、わたしが場所を変わったの」
「ふーん」
「そのおじさんね、私を見つけると、寄り添ってきて…触ったの」
「痴漢?」
「まぁ、そうかな?それから…毎日…」
「毎日?」
「うん。おこずかいもらってたし、わたしもけっこうそのおじさんが好きだったし…。いいかって…」
「そうなの」
「でも、…見られてたの」
「誰に?」
「クラスの男の子…援交もばれてた」
わたしは、ただ黙って聞いた。
「痴漢女って呼ばれて…。誰とでも寝るって…。ひどいこともされた…」
夏海は22歳だが、童顔で、中学生といっても通じる。
ただ、そのときの暗く沈んだ夏海の表情は、年相応の顔だった。
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