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沙希の悪戯1-4
4.カップル割引
「ミルフィーユとチョコケーキと…ええい、カマンベールチーズケーキも」
「何なの?やけ食い?」
「そういうわけじゃないんだけどね」
「ごめん、君もここのバイト?」
突然、男に話しかけられた。
「ああ、ごめん。俺、中島って言います。今度、ここのオーナーがね、何かイベントをやりたいって言うんで呼ばれたんだけど…。店長とは今、話して…、後はバイトのみなさんとも順々に話したいんだけど、彼女は今勤務中だし、君もバイトなら、君と先に話そうかと思って…」
一応、表向きにはそういう話しになっている。
「はぁ、まぁ、週2回だけですけど…」
沙希は、沙希の注文したケーキを箱に入れている同僚のバイトの美穂の顔をうかがった。
美穂が、黙って首を縦に振る。
どうやら、嘘ではないらしい。
「840円になります」
沙希がケーキの代金を払おうとしたら、その男が割り込んだ。
「あっ、それいい。俺が払う」
沙希の脇から優作の手が伸び、レジカウンターに1000円札が置かれた。
「えっ?」
「10分くらい、話せない?」
代金を払われてしまっては断りにくい。
「はぁ」
あいまいな返事だが、ノーではない。
「じゃ、そこでなにかおごるよ」
優作は沙希の肩を押すようにして店を出た。
隣は、大手チェーンのコーヒーショップ。
「突然、声をかけて驚かしちゃったね、ごめんね」
優作は、自分にコーヒー、沙希にミルクティーを渡して、通りに向いたカウンターに並んで座った。
「実は、ちょっと店じゃ聞きにくいことだったんで…、無理に外に誘ったんだ。ごめんね」
優作は前置きした。
「店長に初めて会ったんだけど、あの人、普段何してんの?」
「店長ですか?」
沙希の顔が曇った。
「いや、言っちゃ悪いけど、ちっちゃなお店のイベントだろ。店長もバイトの娘もいるのに、なんで俺に?って思ったわけ。で、今日、初めて店長に会って…、これも言っちゃ悪いけど、なんか頼りない人で…。でも、初対面だし、変に第一印象だけで判断しちゃまずいから、訊こうと思って。店じゃ店長いるし、訊けないだろ」
「店長…、見たまんまじゃないですか」
「あのまんま?」
「たぶん」
「実は、ばりばり仕事をするとかって?」
沙希は首を振った。
「ケーキ焼く練習はしてるの?」
「たまーにしてるみたいです。わたしは見たことないけど、美穂ちゃんはなんどか見たみたいです」
「はっきり言って、頼りになる?」
沙希は首を振った。
「だめか…」
優作は、わざと落胆したふりをした。
「バイトって何人いるの?」
「美穂ちゃんとわたしと古賀さんと大西さん…4人。でも、通しで入ってるのは美穂ちゃんだけ。お店のことは美穂ちゃんが一番詳しいから、美穂ちゃんに聞いてください」
「そう、店長が頼りにならないとしたら、頼れるのはバイトのみんなだけだからね」
「美穂ちゃんはしっかりしてますよ」
「ありがと」
「あのさ、例えばなんだけど、カップルで来て、男が女の子にケーキを買ってあげるときは5%引きで、しかも抽選で3千円が当たるとかってどう?」
単なる思いつきだ。
「はぁ」
沙希の食いつきは悪い。
「彼氏いる?」
沙希は首を振った。
「例えば、まず。明日、だれそれの誕生日でケーキプレゼントしたいのとかって言って、男を誘うわけだ。もちろんケーキ代は先に男に渡しておくんだけど…。男に払わせれば、ケーキが5%オフで買えるし、しかも抽選で当たれば3千円だ。で、ありがとう、今度いついつがわたしの誕生日だからそのときもよろしくとかって…。自分の誕生日をアピールしておけば、脈があれば、誕生日のケーキは彼からのプレゼントになるかもしれない」
思いつきをちょっと広げてみた。
「もう少し、安くなりませんか?10%とか…」
意外にも沙希が乗ってきた。
(誰か、いるってことか…)
「どうかな?調べてみるよ」
「そうだ。カップル割引っていうカードを作るから、沙希ちゃん…沙希ちゃん、苗字は?」
「夏目ですけど、沙希でいいです」
「じゃぁ、沙希ちゃん、そのカードを友達に配ってくれないか?」
「配る…ん、ですか?」
「ああ、でね、そのときに、さっき俺が言ったように誰でもいいから男を連れて行けば、安く買えるよって言いふらせ」
「はぁ…」
沙希には優作の言うことがピンと来ない。
「そうやって言いふらしておけば、自分が男を誘うときに誘いやすいだろ」
「ああ」
沙希がにこっと微笑んだ。
「じゃぁ、これやってみようか。オーナーに話してみるよ」
「あのぉ」
沙希が話しかけた。
「何?」
「店長、オーナーと…」
「えっ?」
「見たわけじゃないですけど…」
話しにくそうな沙希の言葉の後を引き取った。
「できてるってこと?」
沙希がうなずく。
「みんな、そう言ってます」
「そういうことか。それより、沙希ちゃん、好きな男がいるんだろ」
沙希がうつむいた。
「だいじょうぶ、めっちゃかわいいし…」
「えぇーっ」
冗談のつもりだったがオーバーに驚く顔が意外にかわいい。
「ごちそうさまでした」
「こっちこそ、時間とらせて、ありがとう」
優作は歩いていく沙希の後姿をしばらく見送った。
短いスカートから伸びる白い太ももがなまめかしかった。