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続・亜希の反抗1-2
2.早苗
「わたし、いつまであんなところにいるの?」
「何かあったのか?」
「何もないわよ。毎日、毎日、ほんのわずかの資料の整理とお茶汲み、ひまでひまで死にそう」
「楽でいいじゃないか」
「それにもう、どいつもこいつも年寄りばかり。ゴルフの話か下ねたギャグ。本当によく飽きないで毎日、同じような話ができるもんだってあきれるわ」
「天下り先だからな。老人ホームみたいなもんだ」
「他人事だと思って…」
早苗は、元はキャバクラに勤めていた。
誠が足繁く通ってものにしたのだ。
誠の父親は、6期連続当選の市議会議員で、彼の後援会には、市内の有力企業が名を連ねている。
早苗のいた店のオーナーは、父親の後援会の企業の中の一人だ。
店の開店には、父親がかなり尽力している。
早苗はナンバー1というわけではなかったが、当時はまだ県の職員でしかなかった誠が、彼女を落とせたのは店側の協力もあってのことだ。
誠は、父親の地盤を引き継ぎ、父親を越えて県議会議員に立候補、無事当選を果たした。
「お給料も安いし…、なんにもしてないあの人たちの4分の1よ」
自分も何もしていないのだが、それは棚の上だ。
「いいわね。公務員って…。定年になっても遊んで暮らせちゃうんだから…」
「全部が全部そうじゃないさ。天下りできるのはほんの一握りのお偉いさんだけだ」
「あれでも、お偉いさんだったのね…。ただのすけべおやじだけど…」
誠の早苗への入れ込みは相当で、本気で結婚する気でいたのだが、身内に大反対された。
早苗が水商売だからだ。
それで誠は、早苗を県の外郭団体の臨時職員にねじ込んだのだ。
月平均60万程度の収入があった早苗が、わずか12万の臨時職員を簡単に受け入れるわけがない。
早苗の暮らしているこのマンションは、篠塚誠事務所の名義だ。
早苗は、ここの管理を依頼されていて、月8万の管理費を事務所から支給されている。
水道光熱費、消耗品はもちろん、家具、電化製品の購入、車から電話代まですべて事務所もちだ。
悪くない話だった。
うまくすれば、県議会議員の妻という道もないわけではない。
すでに誠は他の女性と結婚していたのだが、週に2回はここに来ている。
「もう4年めよ。そろそろ考えてよ」
「4年めか…」
誠はつぶやいた。
議員に当選してすぐに早苗をここに囲った。
もうすぐ4年。
任期が切れる。
次の選挙が目の前だった。
「そうだな。次の選挙に当選したら、なんとかする」
「なんとかって?」
誠が妻の亜希と不仲なのは早苗も知っている。
「とりあえずは、秘書かな」
「秘書?わたしが…?」
「秘書じゃ不満か?」
「だってわたし…」
一応、どうにかこうにか高校は中退せずに卒業はしているが、中退率35%という県内最低レベルの高校だ。
「議員のたいていは、愛人を秘書にしてるさ」
「愛人…なのね」
いつか離婚して、早苗を妻にするからというのが約束だった。
議員にとって離婚というのは、かなりのマイナスだ。
まして再婚相手が、元キャバ嬢ともなれば、なおさらだ。
よっぽど強固な選挙地盤を構築できないと、うかつにやれることではない。
もちろん、早苗もそれは知っている。
誠の言葉を、そのまま信用してはいない。
ただ、普段、わがままを押し付けてくる誠へのストレスを発散しているだけだ。
「もう、帰るよ。明日、朝が早いんでね」
誠は、言い訳がましくそう言って、そそくさと服を着始めた。
「出張から帰ったら、例の集まりに呼ばれている。そのつもりでな…」
言いにくいことは帰り際に言う。
小心者の誠のいつものやり方だった。