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真希の妹6-1
1.思ってもいなかった
「ねぇ、梓」
わたしは、梓があがるのを待って、いっしょに帰った。
(明日香の話を確かめないと…)
「何?」
「変なこと聞くけど…。梓、ここの他でもバイトしてるの?」
「そんなの、できるわけないだろ」
「そうよね」
「どうしたんだ?急に」
「ううん。明日香って、エステに来てるでしょ。友達なんだけど…」
「彼女がどうかした?」
「彼女がね、梓を見たって…」
「そりゃ、見るだろ。うちに来てるんなら…」
「じゃなくって、他の店で仕事してたって…」
「他って…それ、もしかして、酒屋さん?」
「そう。してんの、バイト?」
「いや、俺はしてないけど…」
「俺はって、どういうこと?」
「兄貴がやってる」
「お兄さん?」
「双子なんだよ」
「双子?」
「ああ。穂高っていうんだ」
「うそ。そんなこと今まで一回も言ってなかったじゃん」
「言わなきゃいけなかったか?」
「そうじゃないけど…」
わたしだって、真希のことは言ってない。
「ごめん、正直に言うよ」
梓が急にあらたまった。
「何なの?」
「美希、穂高にもう会ってるんだ」
「会ってる?わたしが?」
「レナは、自分で一部屋持ってるけど、俺達はバイトもあるんで二人で一部屋なんだ。で、ときどき都合が悪くなると替わるんだ。だから、双子だって黙ってた」
「えっ、じゃぁ、わたし、お兄さんにやってもらったってこと?」
「ごめん」
「ひどいわよ。いくら双子だって…」
「最初の1回だけだよ。自分から誘って、だめになったって言えなくて…。それにあの日は足ツボは予定じゃなかったし…」
(最初の1回って…、そう言えば、レナさんに勧められてやったんだ。でも、あのときも、わたし、裸だったじゃない)
もっと怒るべきだったんだろうけど、こちらにも事情がある。
あまり怒るとこっちも打ち明けにくい。
「ごめん。あのさ、実は、わたしも双子なの」
「えっ…。からかってるのか?」
「まさか、本当よ」
「まじ?」
「うん。真希って言うの。それがね、梓のお兄さんと同じ店でバイトしてると思うんだ」
「真希?」
「知ってる?」
「えっ、うちのエステに来てるよね」
「そうなの?真希も行ってるの?」
「ああ。真希って言う子も来てるよ。穂高の彼女だって…。えーっ、でも、似てないよ」
(彼女?嘘でしょ)
「似てない双子もいるでしょ」
「そりゃ、そうだろうけど…」
「それより、今、真希が梓のお兄さんの彼女だって、言ったわよね」
「ああ。穂高はそう言ってたけど…」
「まじ?」
「ああ」
「あれ?…まさか、梓もお兄さんの替わりにやったとか?」
「やってないよ。別に好きで替わってるわけじゃないんだ」
「そうなの?」
「何だよ、それ。あの時は、レナが突然すすめたんだろ。俺は、美希が足ツボもやるとは思ってなかったし…、だから、お前のことバイト先の知り合いだとしか言ってなかったし…。その後は、ちゃんと言ったさ」
「ちゃんとって…なんて言ったの?」
「俺は、美希のことが好きだからって…」
「そんなこと言ったの?」
「ああ」
「お兄さんも、真希のことが好きだって?」
「ああ。…でも、すごくない?」
「何が?」
「双子同士が、同じ場所でバイトして、知らずに付き合ってたんだぜ」
梓は完全に舞い上がってハイトーンだ。
「…」
「なんか、運命的じゃないか?」
「ただの偶然よ」
「そっけないなぁ。もっと感動しろよ」
「驚いてるわよ」
わたしが驚いているのは、真希に彼氏がいたということだ。
真希がどんな格好をしていても、わたしには男だ。
真希が男を好きになるなんて…
真希を好きになる男がいるなんて…
思ってもいなかった。