スポンサーサイト
新しい記事を書く事で広告が消せます。
美菜子の追憶4-4
4.頼れる人
中2になってすぐの頃、母と男は、よくけんかをするようになった。
母は、男によく殴られた。
わたしは、部屋の隅でいつもそれをじっと見ていた。
怖くて、怖くて、ただじっと見ていた。
でも、その日は、決めていた。
前の日、わたしは近くの工事現場で工具を拾った。
モンキーレンチ。
後でその名前を知った。
なんの道具かも知らない。
銀色に輝いて、持つと片手では重かった。
これを使って…と考えたわけではない。
考えたのは、持ち帰って家についてからだ。
いつものように言い争いは始まった。
わたしは部屋の隅でこっそりモンキーレンチを取り出して握った。
男が母の髪をひっぱって床に引きずり倒した。
今だと思った。
後のことはよく覚えていない。
男は、鎖骨と大腿骨の骨折だったらしい。
わたしは、殴られる母をかばったということで咎められなかった。
でも、母をかばったわけではない。
実際、母も殴ろうと思った。
そのときの母の恐怖にひきつった表情は、今も覚えている。
また、引っ越した。
それっきりその男は来なくなった。
母は、無口になった。
わたしは高校を出て、家を出た。
お金が無くてスナックでアルバイトをした。
それ以来、ずっと夜の仕事だ。
一度、結婚したが、すぐに離婚した。
娘が二人いる。
父親が違う。
わたしは父親というものをよく知らない。
母親というものもよく知らない。
よく知らない役割をふたつも背負ってしまった。
ときどき、誰か頼れる人がいたら…って思うが、思うようにはいかない。
わたしの名は、柏木美咲。
柏木は、父親の姓。
美咲は、最初に勤めたお店で使った名前。
お酒も飲めないのにクラブのママをしている。
風と砂の街
ここは、海が近い。山も遠くない。
1年中、強い風が吹く。
なんでもないおだやかな日にも
突如として激しい風が吹くことがある。
風は、ときに砂を運んでくる。
ここは、大都市近郊の田舎街。
都会の非情さと田舎のいやらしさが混在する。
風と砂の嫌な街。
この街が好きだという人がいる。
でも、それは、わたしじゃない。
美菜子