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由香里の日常2-6
6.連絡する
何気ない祐二の一言だった。
(知られたくなかった…そう…そうよ)
由香里は、バージンであることが恥かしいわけではなかった。
ただ、ヌードモデルをしていて、もし、バージンだと知れたら、どんな顔をされるんだろう。
それが気になった。
驚かれるに違いない。
好奇の目で見られる…。
もしかしたら、言い寄られる。
バージンなのに見せるのが好きな女…そう思われる。
それは、自分で考えても、普通ではない。
工藤の前で、覚えた息苦しさの理由が、由香里はようやく分かったような気がした。
工藤には知られている。
そう感じていた。
だからこそ、祐二に応じたのかもしれない。
工藤を信頼したいしたわけではないが、もしかしたら、いつもどこかで感じている息苦しさから、自分を解放してくれるかもしれない…そんな気がしたのかもしれない。
隣の寝室で電話が鳴った。
祐二が、時計を見ながら、隣の部屋に入った。
(わたしがバージンだって知ってた。でも、祐二さんは、今日、偶然ここに来たって言った。じゃぁ、工藤さんは、わたしをどうするつもりだったんだろう…自分で?でも、何のために…わたしを抱きたいんだったら、祐二さんに譲ったりしない。ということは、抱きたいわけじゃなかったんだ。でも、祐二さんには抱かせた。どうして?わたしが騒げば…どうなったんだろう…)
工藤は、危険を犯しているはずだった。
由香里には、工藤の目的がわからなかった。
「工藤さん、帰ってこないらしい」
祐二が、由香里に告げた。
「そうなんですか」
「だから、もう服着ていいよ」
「はい」
由香里は、部屋の隅に置いてある自分の服を着始めた。祐二も着ている。
(帰ってこない…わたしの様子は、祐二さんが伝えたんだろうけど…)
「あのぉ、祐二さん」
「何?」
「変なこと聞きますけど…工藤さんとは、どういうお知り合いなんですか?」
「お知り合い?」
その言葉がよほど可笑しかったのか、祐二は、しばらく笑いをこらえていたが、ようやく話し出した。
「似たような趣味を持っててね。そういう連中が集まるサークルみたいなのがあるんだけど、工藤さんはそこの主宰だ」
「主宰?」
「ああ、中心的な人っていうこと」
(似たような趣味って…写真じゃないのよね。ヌード撮影が初めてだって言ってたし…)
「あのぉ…似たような趣味って?」
「工藤さんは、もっぱら写真だけど…俺は、写真じゃなくて…絵を描く」
「絵?」
「似合わないでしょ」
確かに、筆を握りそうな手ではない。
「あっ…そうだ、今度、あなたの絵を描かせてくれないですか?」
今、思いついたのだろう。大きな太い声だ。芸術とは程遠い感じの…。
「絵のモデル…ですか?」
「だめかな?…ああ、事務所に言わないといけないのかな」
「いえ…別に、事務所を通さなくても…」
由香里の所属するところは、絵のモデルという仕事もあるが、初めての人が依頼しても応じない。
タレント事務所ではないので、別に所属しているモデルがどこで何をしようと問題にはならない。
実際、自分で仕事の取れるモデルは、他でも仕事をしている。
「そうなの?じゃぁ、考えて…」
そう言うと、祐二は、テーブルに転がっていたペンを取り、ポケットを探って、名刺を取り出すとそこになにやら書き込んだ。
「これ、俺の連絡先。ここに電話くれないかな」
工藤の名刺だった。祐二は、工藤の名刺の裏に自分の電話番号を書いたのだ。
「はぁ…」
由香里は、それを受け取った。
「送ろうか?」
祐二の申し出を玄関で断った由香里は、外に出ようとして立ち止まった。
「あのぉ…わたしからは、たぶん、連絡はしないと思います」
その言葉に、祐二の表情が…。
本当に子供のように分かりやすい表情をする。
「わたし、由香里って言います」
由香里は、本名を名乗った。
「それって…本名がっていうこと?」
「はい」
由香里は、バッグの中のメモ用紙に、自分の電話番号を書きはじめた。
「これ、わたしの電話です。祐二さんから連絡してください」
「いいの?」
「はい…絵のモデルって、やってみたいなって思ってたんです」
「そう」
祐二の表情がみるみる明るくなる。
「じゃぁ、連絡する」
「待ってます」
ほんとうに嬉しそうな祐二の顔だった。
由香里の日常3-1
第3章
1.別荘
祐二からすぐに絵のモデルの依頼が入った。
場所は、車で3時間くらい離れた海辺の街で、そこに祐二の別荘があって、今回は、3泊すると告げられた。
(3泊か…)
モデルの依頼ではあるが、事務所を通した仕事ではない。
別荘に誘われているだけとも言えなくもない。
(でも、何人かのサークルって言ってたし…)
それに祐二は、工藤の知り合いだ。
初対面でセックスしてしまったが、それは工藤の指示だ。
まさか、ひどい目にあうこともないだろう。
由香里は、祐二の依頼を引き受けた。
「着いたよ」
車を降りて、由香里は周りを見回した。
海岸から少し離れてはいるが、海が見渡せるいい場所だ。
ただ、他に人影は無かった。
「あのぉ、他の人は?」
「他の人?」
「何人かのサークルでって…言ってませんでしたっけ?」
「うん。サークルは、…そうだな、8人かな」
「後から来るんですか?」
「いや、俺一人だけど…」
「そうなんですか?わたし、何人かでいっしょに描くんだと思ってました」
「あれ?そんなふうに言ったっけ?」
「いえ、言ってませんけど…。ひとりだとも聞いてません」
「そうかぁ。俺は最初から自分ひとりのつもりでいたから…。そうか言ってなかったのか?ごめん、気づかなかった」
嘘なのか本当なのか、祐二の顔からではわからない。
「ひとりじゃ…だめか?」
「いえ…そんなことは…」
「ああ、よかった。だめだって言われたらどうしようかと思ったよ。ただのドライブになるところだった」
「そんなつもりじゃぁ…ごめんなさい」
この別荘で3泊。
この男と二人っきりだ。
どこの誰かも知らないのに…。
「ここ…ですか?」
別荘の前のテラスにイスが置かれていた。
「うん、そこに座ってくれないか…海に向って…」
テラスから、前の木々の間に砂浜と海が見える。
人影はないが…
由香里は、そこで服を脱ぎ、裸になってイスに座った。
ひさしの下で、直接、日は当たらない。
「足を組んで…後ろにもたれて…」
祐二は、由香里を見ながら、自分の位置を決めると、パラソルを開いた。
祐二の位置は、日が直接当たる。
祐二は、砂浜と海を背中にして由香里の前に構えた。
とろーんとした日差し、全く聞こえない騒音。
写真の撮影と違って、由香里はポーズを変えることもない。
長い時間車に揺られたせいか、ほんの数分で睡魔が襲ってきた。
(…いけない…)
意識がおぼつかない。
すーっと遠ざかっていく。
由香里は、次第に日の当たる方向にいる祐二を見続けるのが苦痛になってきていた。
「眠ってもいいよ」
不意に発せられた祐二の声に、一瞬びくっとしたが、それも一瞬のことだった。
もう、眠るなといわれても無理なところまで来ていた。
(外なのに…裸なのに…)
由香里が目覚めると…かなり大きなタオルが身体にかかっていた。
少しだけ日差しが斜めになっている。
(まだ…だいじょうぶだわ…何時だろう?どのくらい寝てたんだろう…わたし…)
由香里は、目で祐二を探したが、…なんのことはない。
祐二も寝ていた。
しかも由香里の足元で、デッキに直接タオルを敷いてその上に寝ていた。
(こんなところで…変な人)
由香里は、自分にかけてくれてあったタオルを祐二にかけてやり、自分は服を着ることにした。
(裸のままってわけにもいかないし…)
たたんで置いてある服を拾い上げて、ふと振り返ると…砂浜に人がいた。
こっちを見ている。
(やだ…見られてる…)
由香里は、イスの背もたれに隠れるようにして、急いで下着を身につけた。
「どうした?…慌てて…」
ねっころがったままの祐二が由香里に声をかける。
「うん。向こうに人がいて、こっちを見てるの…」
「そう…」
緊張感のない返事だった。
由香里がTシャツに手をかけたとき、祐二が起き上がった。
「写真を撮っていいか?」
そう言えば、なぜか、カメラが置いてあったことを思い出した。
「写真?…絵は?…」
「絵は描くよ。…ただ、表情が欲しいんだ…」
由香里がスカートを手にすると、その手を祐二がつかんだ。
「その格好で、そっちに立ってみて」
すでに祐二はカメラを持っている。
祐二が示したのは、テラスのデッキの先。
その向こうには、人がいる。
それもいつのまにか3人に増えてこっちを見ていた。
由香里の日常3-2
2.表情
「でも…人が…」
「だいじょうぶ…見てるだけだ。こっちには来ないよ」
(見てるだけって…見られて平気だとでも思ってるの?)
「このあいだの表情が欲しいんだ」
「このあいだ?…」
一瞬、セックスをしているときの顔かとも思ったが、それなら、セックスしながら撮るしかない。
由香里は、祐二の言っていることがよくわからない。
ただ、祐二が本気で言ってるのだということは理解できた。
(なんだかわかんないけど…)
由香里は、スカートは穿かずに、デッキの先に立った。
3人の男達は、露骨にこっちを見ている。
「こっち向いて」
背中で祐二の声がする。由香里は、振り返った。
祐二は、すでにカメラを構えていた。
何枚か立て続けにシャッターが切られる。
由香里は、背中に視線を感じながら、耐えていた。
「シャツ…脱いで」
たぶん、そう言うんだろうと由香里は思っていた。
偶然、裸を見られたわけではない。
人が見ているのを知ってて脱ぐのだ。
由香里は、少しためらったが、思い切って、Tシャツを脱いだ。
覗いている男達はきっと大騒ぎに違いない。
祐二は、じっと由香里の顔を見ていたが、
「下も脱いで」
表情が気に入らないのか?由香里は今度は、なんのためらいもなくパンティーを脱いだ。
祐二がカメラから目を離して、由香里の背後を見る。
(こっちに来てるの?)
由香里は、耳を澄ました。
なにかかすかに音が近づいてくるような気がする。
祐二は、まだカメラを構えない。
「見てるよ。君を…」
「来てるんですか?こっちに…」
「ああ、少しずつ近づいてる」
「どうするんですか?」
「膝に手を当てて、顔をあげて…」
お尻を後ろに突き出す格好だ。
(そんなぁ…)
「お尻を見せるの?」
「そうだ。やつら、突っ立ったままこっちを見てる…さぁ、足を開いて…」
カメラに向けるのも恥かしいのに、目に向けるとは…
由香里の顔に羞恥の色が滲んだ。
その瞬間、祐二がシャッターを切る。
由香里が振り返ると、男達は、たしかにこちらを見ていたが、最初に居た場所と同じところだった。
「うそつき」
「いい顔だったよ」
由香里を連れて中に入った。
「アイスコーヒーでいいか?」
祐二は、まっすぐ冷蔵庫に向うと由香里に訊いた。
「あっ…はい」
由香里は、祐二がアイスコーヒーを入れて持ってくる間、裸のまま立っていた。
「座って」
祐二は、テーブルにアイスコーヒーを置いた。
「あのう…服、着ていいですか?」
「ここにいる間は、ずっと裸でいてくれる?」
「ずっと…ですか?」
「そう…ずっと」
そう言われて、由香里は言葉を返せなかった。
もちろん、ずっと裸でいるなんてとんでもない話だ。
ただ…もしそうしたら、自分がどうなるのか?という気持ちが心のどこかにあった。
何も答えないまま、由香里は座った。
祐二は、いつのまにかじっと由香里を見つめている。
それは、由香里が知っているカメラマンの目ではない。
工藤の目でもない。
画家の目なんだろうか?とも思うが、だいたい、祐二が本当に絵を描くのかどうかもさだかではない。
といって、普通の男の目でもない。
見られているが、恥かしくはなかった。
むしろ、心地よくさえあった。
「縛っていいか?」
不意に祐二がそう口にした。
「そういう絵を描くのなら…」
しばらく考えて由香里が答える。
「そういう絵なんだよ。俺は…」
(そういうつながりなんだ…工藤さんと…)
祐二が、ロープを取り出してきた。
由香里は、心臓の鼓動が激しくなるのを感じていた。
ただそれが、恐怖なのか期待なのか、その時はまだ、わからなかった。
由香里の日常3-3
3.抱いて欲しい
由香里は、縛りは初めてではないが、それはあくまで撮影が目的の縛りで、縛りが目的の縛りではない。
「手を出して」
祐二に言われ、両腕を前に突き出しながら、由香里は、少し震えた。
祐二は、由香里の両手首をいっしょに縛った。
(これだけ?)
祐二は、それ以上は縛らない。由香里の緊張が緩んだ。
「これだけ…?」
「ああ…今日はね」
「最初だから?」
なぜか子供扱いされたような気がして、由香里は訊いた。
「最初?…縛られるの初めてなの?」
逆に、祐二に聞き返された。
「工藤さんのところに来てるから…てっきり…ごめん…」
「いえ、そう言う事じゃなくて…」
(ああ、ばか…モデルなのよ。絵のモデル…わたしったら…)
「縛られたことはあります…写真の撮影で…」
由香里は、写真のというところをことさら強調した。
「ああ」
祐二は、納得したようだった。
「絵のモデルって言っても、今日はデッサンだけだから…写真の撮影みたいなもんだよ。緊張しないで…」
どうやら、祐二は由香里のことばを絵のモデルは初めてだから不安なのだというふうに勘違いしたようだった。
そのほうが由香里にはありがたかった。
由香里は、いつのまにか、絵のモデルだということを忘れていた自分が恥かしかった。
(そう言えば、そんなにきつくない。永井さんと変らない)
祐二の縛りも、写真の撮影のときに永井に縛られたときとそう変らなかった。
ただそれも、由香里の固定観念と言うべきかもしれない。
首という字のつく部位は、慣れた者なら、だれだってそうきつくは縛らない。
痛みは、痛みなのだ。
痛み自体は、決して快感ではない。
慣れた者なら、だれだってそれは知っている。
吹き抜けになった居間の天井に梁が通っている。
祐二は、そこにロープを通した。
「きつくは吊らない」
祐二は縛った由香里の手首に、そのロープを通して、由香里の手が伸びきったところで、止めた。
立っていれば、体重が、手首にかかるわけではない。
問題はない。
祐二は、部屋の中央で吊られた由香里の周りを、ゆっくり回った。
何かが違っていた。
撮影で縛られたことはあった。
つい、勘違いしてしまったが、もう、自分は絵のモデルなんだとはっきり認識している。
きつく縛られているわけでもない。
それでも、何かが違う。
(そうだ…ポーズの注文がない…)
祐二は、じっと見ているだけで、ああしろ、こうしろとは言わない。
由香里を動かさないで、自分が動いている。
もちろん、吊られたままの状態で、とれるポーズといっても、足を開くとか、多少、お尻を突き出すとか、限られてはいるが……。
由香里が、じっとしているのがつらくなったころ、ようやく祐二は位置を決め、座った。
手首はそれほど痛くはないが…腕を上げているのがつらい。
次第に、由香里のからだが揺れ始める。
ふーっ
由香里が大きく息を吐いた。
部屋の空気を重く感じ始めていた。
「うっ」
不意に膝が、がくんと折れて、ロープにぶら下がってしまう。
(いけない…いけない…)
また、元のように立つが、長くはもたない。
「ああっ…」
また、ぶらさがる。
(ああ…来る…)
いつもの感覚だ。息が苦しくなる。
由香里が完全にうつむいて、浅い息を繰り返し始める。
(ここまでか…)
祐二は、立ち上がると、吊っているロープを緩め、ゆっくりと由香里を床に横たえさせた。
完全に目がどこかにいっている。
「ご…ごめん…な…さい」
仰向けになった由香里が祐二に謝った。
祐二は、さっと由香里の股間に指を這わせた。
由香里は、祐二に触られたことはわかったが、ずいぶんと鈍い感触だった。
祐二の指が、すっと中に入ってくる。
(えっ?……)
由香里は、祐二の指で刺激されて初めて、自分のそこが濡れていることを知った。
快感…だったのだろうか?そんなふうには感じなかった。
吊られて…ただ、意識が遠くなっただけだ。それでも、祐二の指が、自分の中で自由に動いている。
ぴちゃっ
音がした。
(そんなに…)
自分が思った以上に濡れていることに由香里は驚いた。
不思議な感触だった。
祐二の指が入っているのに、いじられているのに、それがいつも感じるものとは全く違っている。
痺れている。
手も足も、お腹も太ももも…
祐二の指が、離れた。
抱いて欲しい…由香里はそう思った。
由香里の日常3-4
4.悪くない気分
祐二は、由香里を床に寝かせたまま、キッチンに向った。
由香里は、意識は、はっきりしているのだが、なぜか思うように動けないでいた。
「牛乳は飲めるか?」
祐二が、コップに牛乳を入れて持ってきた。
「ええ…」
ようやく上半身を起して、由香里は、コップを受け取り、ミルクをひと口、口に含んだ。
(咽が渇いてたんだ…わたし…)
口にミルクを含んで初めて、咽の渇きを実感した由香里は、残りをいっきに飲み干した。
触られて初めて感じていたことに気づく。ミルクを飲んで初めてのどの渇きに気づく。
まるで、全ての感覚が麻痺しているようだったが、冷たいミルクのおかげで、体中に感覚が戻ってきたような気がした。
「立てる?」
祐二が、空になったコップを受け取りながら、由香里に訊いた。
「ええ」
さっきまでふわふわしていた足の裏の感覚も、普通に戻っている。
(もうだいじょうぶ。普通に立てるし、歩けるわ)
由香里は立ち上がった。
「シャワーでも浴びる?そのあいだに、なにか作っとくよ」
「祐二さんが…作るんですか?」
「こう見えても…と言いたいところだが、見た通りだ。ろくなもんは作れないけど…」
「わたしやりますよ」
「シャワーは?」
「だいじょうぶです」
「そう?じゃぁ、頼む。そのかわり、コーヒー入れるよ。これはちょっと自信がある」
そう言って、先にキッチンに向う祐二に
「あのぅ…エプロンいいですか?」
「ああ。エプロンは…そこ」
エプロンは、冷蔵庫にくっつけたマグネットのフックにひっかけられていた。
裸にエプロン…撮影でときどきさせられる格好だ。
胸当ての脇からはみだす乳房のふくらみがいいんだと、カメラマンのひとりが言っていたのを思い出した。
かろうじて身体を隠してはいるが、色んな角度から覗き見ることができる。
ちょっと動けば、ちらちら露出するし、ちょっと手を入れれば、どこだって触れるし晒せる。
その男は、そう言っていた。
(手を入れれば…祐二さん、触るかな?)
「スパゲティーでいいですか?」
さすが別荘の冷蔵庫、今日のために祐二が準備しておいたのだろが、レトルト、冷凍食品と缶詰しかない。
(これじゃ、誰が作ったって同じ物になっちゃうわ)
キッチンは、居間に向かって大きく開いている。
料理をしている由香里の後姿は、居間にいる祐二から丸見えだ。
その背中に…そしてお尻に…、由香里は祐二の視線を感じた。
祐二は、ずっと由香里の後姿を見ている。
何かのはずみで、居間のほうを向くと、祐二の視線にぶつかる。
目をそらすのは、由香里のほうだった。
(見られてる…わたしをずっと見てくれている…)
見てもらっていることが、嬉しかった。
「コーヒーはいったよ」
ちょうどスパゲティーも出来上がった。
「はい…おまちどうさま」
由香里は、祐二の座っているテーブルに、食事を運んだ。
コーヒーのいい香りがする。
「いい香り…」
「先にコーヒーもらっていいですか?」
「ああ」
祐二が、コーヒーをテーブルに置くと、由香里は、エプロンを取って、裸になって座った。
「おいしそうだ」
祐二が、由香里の前に座った。
(どうして、エプロンをとった?)
(裸でいろと言われたから…)
(自分だけ裸っていうのは、どんな気分だ?)
(さぁ…でも…悪くない気分…)
由香里は、ひとり勝手に会話を想像した。
先に食事を終えた祐二が、立った。
「もういっぱい、コーヒーをいれるけど、君は?」
「わたしも…」
祐二は、2杯目のコーヒーを食卓ではなく、ソファのサイドテーブルに運んだ。
「おいで、こっちに…」
由香里は、祐二の横に座った。