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沙希の悪戯1-1
Sex Junkie
沙希の悪戯
学生の頃、アパートから駅までの途中、狭い路地だったが、レンガ道があった。
少し坂になったこの道が、駅に向う広い通りにぶつかるその角に小さなコーヒーショップがあって、俺は、毎朝、モーニングを注文した。
学生の頃、俺、夕方から夜遅くまでバイトしていた。
大柄だった俺には、ここのモーニングは少なすぎる。
誰が見てもそう感じただろう。
もちろん、俺が一番それを感じていたのだが…。
毎朝、俺がここに顔を出していたら、ある日、マスターが黙って2杯目のコーヒーを注いでくれた。
礼を言うと、スペシャルモーニングがあると言う。
そんなものメニューには載っていない。
いくらかと聞くと、マスターは通常のモーニングの料金より30円だけ高い金額を言った。
それじゃぁと注文すると、パンとゆで卵が2個になって、トマトがついた。
ハムエッグにロールパン2個、ゆで卵2個とトマトが1個、トマトが桃缶になることもあったが…。
大学を出て、アパートも引っ越した俺は、もうその店に顔を出すことはなかったが、何年かして、そこを通りかかったとき、レンガ道は拡張され、アスファルトで舗装されてしまっていた。
コーヒーショップのあった場所は、ファンシーな小物を扱う店になっていた。
その後、俺は何度か引っ越した。
結婚したとき、仕事を辞めたとき、そして離婚したとき。
俺も彼女も再婚はしていない。
息子と娘がいる。
年に何回か子どもに会う。
去年、子ども達を送っていったとき、駅から公園脇を抜けるレンガ道にコーヒーショップがあった。
なぜか懐かしく、店に入った。
俺はもちろんすぐにわかった。
あれから20年以上経っているのに、驚いたことに、マスターも俺を知っていた。
いや、マスターのほうが先に俺の名前を呼んだのだ。
俺の家から車で30分、決して近くはないが、俺は、また、この店に顔を出すようになった。
俺の名は中島優作。
世間では大手といわれている某商社の一員だ。
第1章
1.始末屋
「課長、どういうことですか?」
優作は、課長の真鍋に詰め寄った。
「何が?」
「何が?じゃないですよ。なんでケーキ屋の支援に入らなきゃならないんです?」
「末端が元気になって売ってくれないとどうしようもないだろ?」
「そりゃそうですが、そこは、うちの末端じゃないでしょ」
「中島、ちょっと会議室に行こうか?」
真鍋は、引き出しから煙草を取り出して、席を立った。
大企業というところは、ときどきわけのわからない仕事が舞い降りてくる。
中嶋優作、31歳。
大手商社に勤めて、8年。
同い年の妻と7歳と4歳の娘がいる。
この若さでは異例の課長代理という肩書きがついているが、花形コースからは大きくそれている。
肩書きは、その代償みたいなものだ。
会議室という名の喫煙所。
真鍋と優作はそれぞれ、自販機のコーヒーを持って、テーブルを挟んで向かいあった。
「本部長から名指しだ」
真鍋はいきなり切り出した。
「名指し?うそでしょ」
「本当だ」
「なんで、俺のこと知ってるんですか?」
「この前の件は、ぜんぶ報告してある」
「ちょっと待ってくださいよ。あれは、課長が受けたことでしょ」
「俺は、部下の手柄を横取りしたりはしない」
(はぁ?)
優作は、今にも口から飛び出しそうな言葉をコーヒーと共に喉に押し込んだ。
大手商社が、直接、街のケーキ屋さんと取引することなどない。
当然、優作が支援を依頼されたケーキ屋とも直接取引はない。
間には、一社、別の会社が入っている。
末端の販売店を開拓するのも、それを支援するのも、本来はこの会社、バイヤーの仕事だ。
優作の部署は、この間に入ったバイヤーを支援するところであって、末端の販売店の支援はしない。
そんなことをしていたら、人件費で倒れてしまう。
それは、会社としての方針なのだが、その方針を平気で覆してくる。
なぜか?
問題は単純だ。
ここの経営者が、本部長の愛人。
ただそれだけのことだ。
半年前、経営の思わしくない居酒屋を支援した。
課長の真鍋への依頼であったにもかかわらず、その仕事が優作に振られた。
たまたま娘が入院して、2週間、有給休暇をとった代償だ。
4店舗あった店のうち、3店舗を取引関係にある大手居酒屋チェーンに売却。
負債は、仕入れ操作で帳消しにしてやった。
あくまで、課長、真鍋の代行のはずだったのだが…。
真鍋にはめられた。
真鍋としては本部長からの依頼は断れない。
しかし、直属の上司である部長と本部長は派閥が異なる。
それもあって、部長の頭越しで依頼が来ているのだ。
しかも、今は、部長の属する派閥が主流になりつつある。
“はいはい”と調子よく引き受けるわけにもいかない。
頭越しの危険な依頼は、部下にスルーする。
大企業で、上から下へと受け継がれてきた処世術のひとつだ。
大きな取引の影には、小さな不正が山のように存在する。
(しょうがない。また、始末つけてくるか…)
「課長」
「ん?」
「俺、ケーキなんか食ったこともないですよ」
「クリスマスにもか?」
「入社以来、クリスマスはいつも仕事でしたから…」
「そうか、ちょうどいいじゃないか、今回は、仕事はこれだけだ。のんびりやって、たまには家族サービスもしてやれ」
“家に帰っても居場所がない”
酒を飲めば、必ず愚痴になる男からの貴重なアドバイス。
優作は、真鍋が会議室を出てから、煙草を2本吸ってから席に戻った。
きちゃった
待ってたよ
ふぅ
ここ、すんごい古いものね。
どうしよう。考えないと・・・