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絵梨の純真2-1
1.彼女?
裕子が帰って、直人は、カバンを開けた。
もらったプレゼントは、裕子の分を除いて4個。
直人は、それらを順々に開いていった。
直人は、甘いものが得意ではないが、チョコは嫌いだからと言ってプレゼントを断るようなばかでもない。
もらったものを他に人にやるようなこともしないが、食べるわけでもない。
しばらく保存して処分ということになる。
クラスの女子からもらった2個と初めて会った2年生の女子からのにはカードが入っていた。
絵文字、カタカナ混じりの文字で書かれた遠回りなメッセージ。
見るだけでうんざりだ。
それらを捨てようとしたが思いとどまった。
(まぁ、置いとくか…)
直人は、3枚のカードを無造作に引き出しに投げ込んだ。
残りのひとつ。
帰り道、コンビニの前で突然、渡されたものだ。
顔は思い浮かんだが、名前は忘れた。
カードは入っていない。
チョコクッキーだった。
これなら、なんとか食べられる。
少し心が和んだ。
誰だかわからないが、メルアドも携帯番号もわかる。
直人は、テーブルの上にチョコクッキーを並べて写真を撮り、“ありがと”のメッセージを添えてそれを絵梨に送った。
絵梨は、ずっと直人のメールを待っていた。
“後でメールするから”
直人の声が耳に残っていた。
食事も急いで済ませ、音速の早業でお風呂にも入った。
(来ない…)
携帯の表示時刻は、8時を回った。
「ふーっ」
ため息をついて、ベッドに寝転んだときに携帯が鳴った。
(来た)
テーブルに並べられたチョコクッキー。
“ありがと”のメッセージ
たった一行のメッセージを絵梨はしばらくずっと見つめていた。
「遅くなったわ。ごめんね」
「無理しなくてもよかったのに…」
「そうはいかないわ。約束だもの。はい、これ」
「何?」
「ホットドッグ。これから夕飯作るから、それ食べてちょっと待ってて」
沙希は、ホットドッグが二つ入った袋を直人に手渡し、すぐにキッチンに向かった。
「コーヒーでも入れようか?」
「さっき沸かした」
「そう。あら、何これ?こんなにもらったの?」
沙希は、テーブルに並んだチョコレートを見て多少、大げさに驚いて見せた。
「沙希さん、チョコ、食べられる?」
「そうか。直人、チョコだめなんだっけ?」
「気持ちが悪くなるんだ」
「しょうがないなぁ、じゃぁ、わたしが食べてあげよう」
沙希は26歳、直人より10歳上だ。
小柄でぽっちゃりした体型だが、ダイエットは考えていないらしい。
直人の父、幸造は今、仕事でタイにいる。
父親の転勤で、一人暮らしを余儀なくされた直人のところに沙希は突然たずねて来た。
週に1度か2度やってきて、食事を作ってくれる。
ときどき様子を見てやってくれと幸造に頼まれたのだと沙希は言ったが、それを父親に確認したことはない。
今日は沙希が来るので、直人は急いで帰ってきたのだが、沙希から遅れるとメールが入った。
裕子がいたときだ。
「クッキーもだめなの?」
「ううん。これはだいじょうぶ」
直人はクッキーを一枚口に入れた。
「それが、彼女からの?」
沙希は、冷蔵庫が置かれている居間とキッチンを急がしそうに往復する。
「いや。今日、初めて会った」
「どんな子?」
「どんな子って…。こっちは初めて会ったわけだし…、でも、なんでそんなことを?」
「だって、直人嬉しそうだよ」
「俺が?」
「こっち見て」
「何?」
大きなシャッター音がした。
「何、撮ってんだよ」
「これ彼女に送ってあげれば…」
「ばか言うなよ。みっともない。それに俺は一人暮らしなんだぜ。誰に撮ってもらった?ってことになるだろ」
「ああ。そうか」
「おい、それって俺の携帯だろ」
「そうよ。そこにあったから…」
「勝手に…」
「そうだ」
「何?」
「じゃぁさ、そのクッキー、もう少し減らして、それを撮って送るってのは、どう?」
「食べたよってこと?」
「そう。おいしかったってメッセージつけて…」
「できっかよ。そんなこと…」
直人は、沙希から携帯を取り上げた。
絵梨の純真2-2
携帯を弄っている直人を尻目に、沙希は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「ぷはぁー。…これがいいのよね」
缶ビールを、いっきにあけて沙希が言った。
「おやじかよ…まったく」
「直人も、飲む?」
「俺は、高校生だ」
「で?」
「飲むよ。で、夕飯って、これ?」
沙希がテーブルに並べたのは、チキンのから揚げ、揚げ豆腐、串焼き、スパサラにえびピラフ。
どうみてもスーパーの惣菜売り場に並んでいたものだ。
時間からして、閉店間際の値札張替え品に違いない。
「作ってる時間がないんだもの」
沙希が、ちゃんと料理をしたのは、最初だけで、最近はほとんどこのパターンだ。
酒好きの沙希には、これで十分なのだろうが…。
「じゃぁ、乾杯」
沙希は、2本目の缶ビールで直人と乾杯した。
「はいこれ、バレンタインのプレゼント」
沙希が大きな紙袋を直人に手渡した。
「開けてみ」
沙希に促され、直人が紙袋を開けると…。
紙袋から出てきたのは、女子高生の制服だ。
「何だよ、これ?」
「それを着てあげる」
「はぁ?」
「恋人のいない直人は、きっと寂しいだろうと思ってね」
「よけいなお世話だ」
「お店のコスプレイベントで着たのよ。クリーニングに出してあったの」
「ふーん」
「どう、着て欲しい?」
沙希はもう服を脱ぎ出している。
沙希は、26歳だが、16歳と言っても十分通用するほどの童顔だ。
直人は、そんな沙希の制服姿も見てみたいという気がないわけでもなかった。
「てかっ、こんなの着たら、そのまんまじゃないの?」
「お客にもそう言われた」
見る間に沙希は着ているものを全部脱いで裸になった。
沙希は、直人の前でも平気で裸になる。
直人も最初はとまどったが、もう慣れた。
挑発しているわけではなく、どうやらそういう性格らしい。
「じゃぁさ、俺、見てるから…。そうだな、ソックスから」
「えぇ?ソックスからなの。裸でソックスからなの?そんな人いないよ、普通」
そう言いながらも、沙希は裸のまま床に座り込んだ。
片足を前に投げ出すと、片膝立ちで、ソックスをはく。
股間の茂みが丸見えだ。
いつものことだ。
沙希の仕草は、いつも挑発的だ。
直人も遠慮ない視線で沙希の股間をじっと見つめる。
自分の股間を見ている直人を沙希は見ていた。
「すけべだね。直人」
「見られたいんだろ?」
「嫌な子ねぇ。はっきり言わないの」
沙希は、直人の前で立ち上がって、白いブラウスに袖を通した。
ちょうど直人の視線の先に沙希の茂みがあった。
それは薄く、本当に幼い子供のようだ。
ブラウスのボタンを下から三つ、四つとめただけで、胸を大きく晒しながら、沙希は、くるっと後ろを向いて、直人の前に今度は丸く白いお尻を突き出した。
「どう?…サービス」
そう言って沙希は笑った。
「いいね」
直人の指が沙希のお尻の割れ目をなぞった。
「こら、触るな」
沙希は、直人から少し離れて、後ろ向きのまま腰を折って、お尻丸出しでスカートに足を通し、スカートをはくと、直人に向かって真っ直ぐ立った。
「どう?似合ってる?」
「女子高生そのものだね」
強めの化粧が気になるが、それさえなければまさに女子高生だ。
絵梨の顔が浮かんだ。
直人は、素顔の沙希も知っている。
化粧がなければ、沙希は絵梨に似ていた。
「褒めてる?馬鹿にしてる?」
「馬鹿にしてないよ…褒めてもいないけど…もう、少し、スカートを上げてみて」
「すけべ。お父さんと同じだわ」
沙希は、ゆっくりとスカートを持ち上げた。
もともと極端に短かったスカートから沙希の真っ白な足が、大腿の付け根まで露出する。
「ねぇ、すけべなお兄さん。プレゼント気にいってくれた?」
直人が立ち上がった。
「高校生と遊ぶのは、相手が男でも女でも犯罪だよ」
直人は沙希の横に座った。
「レイプは、高校生でも大人でも犯罪よ」
沙希は、缶ビールの残りを飲み干した。
絵梨の純真2-3
直人は、小柄な沙希を抱え上げた。
「こら、やめろ」
沙希は、直人を挑発するが、いざ、直人がその気になると、きまって抵抗した。
直人は沙希を抱えたまま、いっしょにベッドに横たわり、沙希の上に乗った。
そうしないと沙希が逃げるのだ。
直人は、沙希の手をつかみ万歳をさせ、その両腕の付け根と沙希の顔を左手で抱えた。
抵抗できないようにして、空いた右腕でブラウスのボタンをはずしていく。
毎度のことで、手馴れたものだ。
沙希は、声をあげたり、露骨な抵抗はしないが、協力もしない。
まるで恥ずかしがる処女のように固まったままだ。
右手一本で、スカートを脱がすのは、けっこう大変だ。
(このままでいいか)
今日は、沙希は下着を着けていない。
直人がスカートをまくって、沙希の股間に手を掛けた。
沙希は、足をぴったりと閉じ、なかなか直人の指の侵入を許さない。
いつものこととはいえ、やっかいな女だ。
直人は、沙希の首筋に舌を這わせる。
「きゃっ、だめ。やめて…」
沙希が本気で抵抗する。
くすぐったいのだ。
直人が首筋に唇をつけると、沙希は、首をすくめて必死に逃げる。
「だめ、痕をつけないで…」
「足を開け」
いつのながらの交換条件だ。
脇の下を舐めることもある。
おへそに指を立てることもある。
強引に足をこじ入れることもある。
沙希は、無理矢理従わせられたいのだと直人は思っていた。
沙希の足が少し開く。
儀式は終わりだ。
直人はすぐにそこに指を入れた。
いつものように、そこは熱くぬめっている。
人差し指と中指をぴったりつけて中に入れ、指の付け根いっぱいまで挿入すると、今度は外の親指をクリトリスまで伸ばしていく。
沙希の頬がみるみる紅潮していく。
直人は、沙希と逆向きに仰向けになると、沙希の顔を自分の股間へと導く。
沙希は身体を起こし、直人のペニスを咥えた。
沙希の舐め方は単調だが、若い直人にはそれでもじゅうぶんだ。
「お尻を見せて」
直人が沙希の足をつかんで自分の顔をまたがせる。
沙希は直人の顔の前にお尻をさらけだす。
あそこもアナルも丸出しだ。
直人は、時おり沙希のクリを舐めるが、何もせず見ている時間のほうが長い。
直人は身体を起こし、沙希を仰向けにした。
もう沙希は抵抗しない。
足を大きく開いて直人を受け入れる。
沙希の手が直人の腰に回された。
直人は突くだけだ。
直人が奥深く突くと、そこで沙希が自ら腰を左右に振る。
「はぁーっ、ああっ…」
直人は、沙希より先にいかないように耐える。
沙希は、わかりやすい。
直人の腰に回した腕に力が入り、腰を左右に振りながら直人を締め付ける。
「ああああ…」
一度達すると、沙希はその後、すぐに何度も何度もいく。
それが直人には嬉しかった。
沙希が両足でぎゅっと直人を挟みつけてのけぞった。
(こんどは俺の番だよ)
直人は、硬直した沙希の足をほどき、沙希の顔をまたぐと沙希の口にペニスを差し入れた。
ゆっくりと沙希の口に挿入する。
根元まで入れる。
直人はすぐにも出そうなのを必死にこらえる。
こらえればこらえるほど快感も大きい。
(ああ、もうだめだ…)
限界まで我慢して、沙希の口に放出する。
放出し終わっても沙希はしばらくそれを口に含んだまま離さない。
しばらくして、小さくなったペニスを直人が沙希の頬の上に置いた。
沙希は、直人のお尻に手を回し、小さくふにゃふにゃになったペニスを頬に密着させて自分から頬をこすりつけた。
絵梨の純真2-4
沙希が帰って、直人は食器を片付けた。
沙希は、食事の準備はするが、片づけまではしない。
少し、腹がすいた。
まだ成長過程の高校生だ。
その気になればいくらでも食べられる。
残っていた絵梨のチョコクッキーを一枚口に入れたが、食べないほうがよかった。
余計に腹が減った。
直人は冷蔵庫を開けた。
沙希が、惣菜を買ってくるようになった理由がもうひとつある。
高校生の男の子の一人暮らし。
ろくなものを食べていないに違いない。
沙希も最初はそう思って、いわゆる“家庭料理”というやつを作っていたのだ。
しかし、すぐにやめた。
事前に連絡もせず、突然、直人のところに行った時、直人はカレーを食べていた。
レトルトではない。
知らなかったとはいえ、沙希は自分が恥ずかしかった。
沙希が作るより、直人の作ったカレーのほうがはるかにおいしかった。
直人は小さい頃から母親がいない。
いつのまにか食事は自分で作るようになった。
手のかかるものは作らないが、レパートリーは少なくはない。
(チャーハンでも…)
直人は冷凍庫からミックスベジタブルを取り出した。
チャーハンをテーブルに並べて、ふと、直人は、携帯が点滅しているのに気がついた。
“今日は、足、手当てしてくれてありがとう。今度また、行っていい?”
裕子からメールが入っていた。
テーブルに絵梨のチョコクッキーが1枚だけ残っていた。
直人は、メールを送った。
裕子ではなく、絵梨にだ。
沙希が言った通り、残り一枚のチョコクッキーの画像に、“おいしかったよ、ありがとう”のメッセージを添えた。
はっきり覚えていない絵梨の顔がいつのまにか沙希の顔に変わっていた。
絵梨は、また直人からのメッセージを開いた。
“ありがと”のメッセージ
これで4度目だ。
わずか1行。
うれしくもあり、寂しくもある。
ただの礼と言えばそれまでだ。
絵梨は何かメッセージを返そうと考えたが、言葉が思い浮かばない。
(いいや。返信は…やめとこ)
絵梨が携帯を閉じた瞬間にメールが届いた。
画像が一枚。
“おいしかったよ、ありがとう”と、メッセージが一行。
絵梨は今度は躊躇なくメッセージを返した。
「よかった 絵梨」
即、絵梨から返信が返ってきた。
“よかった”ただ、それだけ。
顔文字も絵文字も何もない。
ますます沙希に似ている。
沙希のメールもシンプルだ。
ちょっと話がしてみたくなった。
送信しただけで、絵梨の胸はどきどきだ。
返信を求めるようなメッセージを返したわけでもないが、それでも、絵梨は、携帯が気になった。
すぐにその携帯がなった。
直人からだ。
「はい、絵梨です」
「ああ、俺、直人。里中直人」
「メール、ありがとう」
「ううん。クッキーおいしかったよ」
「よかった…」
別に話題があるわけではない。
すぐに会話は途切れる。
「ごめんな。こんな時間に電話して…何してた?」
「ううん。平気。そろそろ寝ようかなって…あなたは?」
「俺?夜食、食べてる」
「夜食?」
「そう、腹へって…。チャーハン作って食べてるとこ」
「自分で作ったの?」
「ああ。一人暮らしだからね」
「一人なの?」
一人暮らしだとは聞いて知ってはいたが、絵梨は聞き返した。
「親父は仕事でタイにいるし、母親は、いないから…」
「そうなの…。じゃぁ、ご飯とか…自分で作るの?」
「ああ。まぁ…」
「里中君、料理もできるんだぁ」
「そんなたいしたものは作れないけど…。カレーはけっこう自信があるかな…」
「カレーかぁ。すごいわね」
「あっ、そうだ。今度、ご馳走するよ。クッキーのお礼に…」
直人が自分を誘ってくれている。
こんなこと予想もしていなかった。
あまりに突然のことにうれしくて絵梨は言葉が出てこない。
「いや?」
「ううん。…行くわ」
「いつがいい?」
「いつでも、里中君の都合でいいわ」
「そう。じゃぁ、明後日」
「補習は?」
「サボる」
「いいの?」
「いいんだ」
自分のために直人が補習をサボってくれる。
絵梨は、声が高くなるのを必死に抑えた。
絵梨の純真2-5
「絵梨」
放課後、また裕子がやってきた。
朝から、何か話したそうだったのだが、絵梨はわざとそれを無視していた。
「何?」
「わたし、直人のマンションに行ったのよ」
「マンションで待ち伏せ?」
「ううん。マンションの前、ピノキオって店で待ってたんだけど、なかなか来なくて、あんまり長くいられないでしょ、あそこ小さいから…で、外に出たら、急に小学生が前を横切って、転んじゃったのよ」
例によって、話がどこにつながるのかわからない。
「ふーん」
「そしたらさ、偶然、そこに直人がいて…」
「見られちゃったの、転んだとこ?」
「うん。そのとき、足首、捻挫しちゃって…立てなかったの」
「うわっ、最低」
「でしょ。でもね、彼がさ、だいじょうぶかって?」
「そうなの?彼って優しいんだ?」
絵梨はなんとなく嬉しかった。
「歩けるかって、起こしてくれて…俺んち、そこだからって」
少し嬉しかった気持ちがいっぺんに冷めた。
「部屋で、手当てしてくれたのよ。どう、すごくない?」
「よかったわね」
「二人っきりでさ、わたしの足首をマッサージしてくれるの」
「そう」
聞きたくなかった。
「で、これから、お礼に行くんだ」
「お礼?」
「手当てしてもらったからね。あっ、行かなきゃ。じゃぁね」
直人のクラスの補習が終わる時間だった。
裕子は慌ててカバンを持って教室を出て行った。
絵梨は、教室に残った。
今日は、後門で見るだけじゃなく、話をするつもりだった。
明日のこと。
明日は直人がカレーを作ってくれる。
それで一日中舞い上がっていた絵梨の気持ちが急激に冷めた。
授業が終わるチャイムが鳴るのをイスに座ったまま聞いた。
(何やってんだろ…わたし…)
別にすることはなにもない。
絵梨は、ただじっと椅子に座っていた。
裕子は、コンビニで直人の帰りを伺っていた。
(来た)
直人を見つけ、直人が見せの前を通り過ぎるのを待って裕子は後を追った。
裕子は、昨日、直人と関係したことを絵梨に話さなかった。
(セックスだけじゃないわ)
セックスだけの関係じゃないと思いたかった。
裕子は、足早に追いかけたが、それでも直人との距離は縮まらない。
とうとう裕子は駆け出した。
走らなければ、追いつけそうにない。
「里中君」
マンションに入る手前の直人を裕子が呼び止めた。
直人が、振り返った。
不思議そうな顔だ。
「昨日はありがとう」
裕子は息を弾ませながら、それだけ言った。
「えっ?ああ。足、大丈夫みたいだね。よかった」
走れるくらいだから、問題ない。
「うん。おかげさまで、今日はもうぜんぜん平気」
「で、何?」
「お礼が言いたくて…」
「お礼?」
直人は意外だという顔だ。
裕子は、直人にうれしい顔をして欲しかった。
「ねぇ、今日、塾でしょ?」
切なさをこらえて笑顔で訊いた。
「ああ」
「行く?」
「そのつもりだけど…」
「食事は?」
「どっかで適当に…」
「ねぇ、わたしもいっしょに行っていい?」
「いっしょに?」
塾は、まだ5時30分。
塾は8時からだ。
途中、どこかで食事するとしても、1時間以上は余裕がある。
「でも、すぐには出かけないぜ」
「うん。いいの。待ってるから」
「待ってる?ここで?」
裕子は返事はせず、じっと直人の顔を見つめた。
「来るか?」
直人はそう言って、すぐにマンションに向って歩き出した。
あきらかに見透かされた感じだ。
裕子は、少し遅れて着いて行った。