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悶絶(1)
悶絶(1)
純一に連れてこられたのは、どこにでもあるようなショーパブだ。
まだ準備中の札がかかっているにもかかわらず、純一は扉を開けて中に入った。
「いいの、入って?」
「いいんだ。今日は客じゃない」
(客じゃない?)
「いらっしゃい」
ちょっと年配の男性が声をかけてきた。
「長嶋さん、今日は、無理言ってすいません」
「無理だなんてこちらは、大歓迎ですよ。こちらが奥様?」
「梨央といいます」
梨央は、軽く頭を下げた。
「美香は?」
「奥で準備中です。呼びましょうか?」
「いえ、こちらから行きます」
店の中は、中央のステージを囲むようにテーブルが配置されている。
そのステージ脇を通って奥の扉を開けた。
「待ってたわ。こちらが奥様?」
年齢は梨央と同じくらいか、ちょっと上といった感じの女性だ。
「美香さんだ」
純一は、ただそう紹介した。
「梨央といいます」
梨央は、また軽く頭を下げた。
「ショーは初めて?」
いきなり美香が切り出した。
(ショー?)
「初めてですって言うか、本人はまだ何も…」
純一が答えた。
「あら、そうなの。今日は、わたしとショーに出てもらうの」
「ショー…ですか?」
「だいじょうぶ、歌ったり踊ったりっていうショーじゃないから…」
「どんな…?」
「そうね。まだ時間はあるから、リハーサルしましょうか。いい?」
いいも悪いもない。
梨央には、NOという選択肢はない。
「じゃぁ、奥さん借りるわね」
美香は、純一にそう言うと、ちょっと大き目のバッグを持って立ち上がった。
先ほどの長嶋という男と話始めた純一を残して、梨央は美香と店を出た。
「絶対服従なんですって?純一に聞いたわ」
美香が話しかけてきた。
(そんなことまで…)
ずいぶん馴れ馴れしい口の聞き方だ。
梨央、ただ、黙ってうなずいた。
「今日はね、どこかのサークルの貸切だから、ちょっとだけ過激になるかな」
(過激?)
「リハーサルって…どこで?」
「ああ、そこよ」
美香の視線をたどると、そこにあったのは、ラブホテルだった。
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